第6話 雷撃の弓矢

僕らが図書館に来ると、リカオンが足を組んで本棚の上に座っていた。

彼女は拘束した博士を前に見せると、

黒い玉を取り出した。

アレは間違いなく、助手を魔夢化させたものだ。

彼女は躊躇することなく、口の中にソレを入れた。

しかし、ここは驚くべき事に夢の世界ではなく、“現実世界”


これが意味する事は、“全て現実”であるということ。


『魔法ヲ使エテモ、現実デ、致命傷ヲ負ッタラ、死ヌヨ』


ハッピーは“死ぬ”という単語を平気で持ち出した。


漆黒に包まれ大きい耳をし、猟犬の様なその姿に皆体を振るわせた。


「サーバルちゃん、博士をお願い...」


「うん!」


僕とアライさんとフェネックは

リカオンに立ち向かって行った。


前方から、輪っかが飛んでくる。


「当たらないよっ」


フェネックは手馴れた銃さばきで、的確に落として行った。


「アライさん、行きますよっ!」


「お任せなのだ!」


アライさんの剣に向かって火を放ち、

剣が燃え上がった。


狙いを定め、斬りかかった。


「バーニングソニック!」


橙色の炎の波がリカオンに向かった。


それと同時にサーバルは博士を救い出したのだった。急いで後方へ下がるサーバル、そして近づくアライさんの技。全て順調に行くかのように思われた。


しかし、ここから事態は一変する。


アライさんの技が当たる。

すると、けたたましい咆哮が聞こえた。

次の瞬間である。


「のだっ!?」


「あっ!」


「んっ...」


「うみゃ!?」


変身していた4人の動きが“拘束”された。動かせない。

これは明らかにリカオンの能力だ。


博士はぼんやりと目を開けた。

先程サーバルに投げ飛ばされた。


後ろを見ると、サーバルの首には

首輪と鎖が付けられている。

それは触手の様にリカオンの身体から

生えているものである。


「う゛み゛ゃ゛ぁ゛...ぐるじい...」


思いっ切り引っ張られたサーバルは

低く仰々しい声を出した。必死に首を両手で掻きむしる様に抑え気道を確保しようとしている。他の3人もそうだ。


「サ...バル...、ガホッ...、ちゃ...」


「苦しいのっ...だぁ...」


「うっ...」


皆の苦しむ姿を見て、胸騒ぎが止まらなかった。


(私のせいで...、っ...)


助けられれば。

そう思う博士にハッピーはスターストーンを渡した。


『君ハ、コレデ皆ヲ、救ウンダ。

星ノ力、自分二届ト、願ウンダ』


博士に迷いは無かった。

半ば乱暴にそれを奪い取る様に受け取ると、すぐに変身した。


「星の力...、私に届くのですっ!」




白いローブを他靡かせ、グレーのベルトを巻いたスカート、腹の周りを露出させたスタイルに、腰に備え付けられた矢


彼女の姿は狩人だった。


『正義ヲ貫キ通ソウトスル、気持チト、閃ヲ与エル賢サノ、イカヅチ...』


無心で矢をリカオンに構えた。

今はもう、フレンズじゃない。

魔夢という怪物だ。


矢を放つ瞬間、黄緑色の電流が矢を包む。雷の様に。


「サンダーアロー...」


そして、閃光を引いた。

光陰矢のごとし。


バチバチという音を立てながら、それは

猛犬の姿になったリカオンの眉間を貫いて行った。


そして、身体に黄緑色の強い電流が流れた。


“グルゥオオオオォォォォ!!!!”


悲鳴のような雄叫び聞こえた。


四人はそれと同時に解放される。


皆揃ったように息を乱していた。


「ハァー...、ハァ...、は、博士...」


サーバルは博士の姿を見た。


「博士さんが...」


かばんも信じられないようだった。


強い電流による攻撃を受けたリカオンは何故か前足を天にあげ、そのまま後に倒れた。物凄い衝撃が地面に響き、図書館の建物も半壊した。


彼女を覆っていた黒いベールが塊へと収縮し、最終的に彼女の前の姿に戻したした。博士もハッと我に返ったようになり、5人は恐る恐る近付いた。


「嘘でしょ...」


フェネックは思わず口を手で隠しながら

小さく呟いた。


「リカオンさん...」


かばんもやるせない声を出す。


「えっ...」


「のだ...」


アライさんとサーバルは驚き言葉も出ない様子だった。


博士は顔色を変えていた。


リカオンは左手に大きな傷を負い、

胸の部分に矢が突き刺さっていた。

刺さった箇所が赤く染まっていた。


「どうして...」


かばんがそう言うと、ハッピーは

羽を動かしながらこちらに来て喋り始めた。


『現実世界デ、魔夢ニナッテ、倒サレタカラダヨ。夢世界ジャ、何デモ夢デ片付ケラレル。ケド、ココハ、現実。

言ッタダロウ。

致命傷ヲ負ッタラ、死ヌッテ』


「私の...、せい...?」


『博士ハ、悪クナイヨ。

現実世界デノ、魔夢化スルリスクヲ、ワカッテイナイ彼女ガ、悪インダ』


ハッピーは責任をリカオンへと押し付ける。


『コウナッテシマッタイジョウ、

ドウシヨウモナイ』


「いいや、“どうしようも”あるぜ」


唐突に現れたのはタイリクオオカミだった。


「いやぁ〜、こりゃあひでぇな。

よく同士のフレンズをここまで残虐に殺せるよなぁ...、ハカセ?」


笑いを堪えるような目で見つめた。


「オレはコイツを処理しないとな」


そう言うとリカオンの体を抱え、そのまま消えた。


束の間の出来事にみな、どのような反応をすれば良いのか、適当な表現が見つからなかった。


「博士さんが協力してなければ、

僕達は今頃...、とにかく、ありがとうございます」


「あぁ...」


青菜に塩を掛けた様子で、小さく呟いた。


「あっ、そうだ、博士!助手を助けて!」


「はい...?」


サーバルに導かれて行くと、助手が横になり眠っていた。


「助手...!」


「博士でしか助手を起こせないみたいなんだ...」


そっと、助手の上半身を抱き起こす。


(起こすと言っても一体どうすれば...)


考えて、一つのアイデアが浮かぶ。

眠っている人物を起こす方法、かなり

メルヘンチックだし、確信は無いが...


助手の顔を見つめた。

安らかな寝顔だ。


腹を括り、目覚めると願い自身の顔を

近付けた。





「...博士」


「助手...!目覚めたのですね!良かったのです...」


助手に抱き着き感涙に咽んだ。


「あっ...博士...」


助手も戸惑いの顔を浮かばせつつも、

博士を宥めた。






「ハッピーさん...、現実で実際にダメージが入るのはわかりますが、サーバルちゃんが前に夢世界で傷付いたのは何故ですか?」


『カバン、スターガーディアンノ、

特性ハ、夢ノ世界デモ、現実世界ト同ジヨウニ動ケル様ニナッテイル。

簡単ニ言エバ、アッチ側ト、コッチ側ジャ、性能ガ違ウッテ事ダヨ』


ハッピーの説明では100パーセント理解する事は出来なかった。

ふんわりとした概念的なものは掴めたが。








「...ありがとうございます。シリウス様。お命を救って頂きまして。

このリカオン、シリウス様の為でしたらどんなオーダーでも承り差し上げます」


『ジェーン』


「はい」


『水辺へ向かえ』


「了解...」


『くれぐれも、アイツらにやられるな

魔夢の力は夢世界じゃないと、実力を発揮できない』


「はい」


「おい、ジェーンよぉ...

声が小せえんだよなぁ。

その虫の音みたいな声耳障りだからやめてくれよったく...」


ジェーンは足を組むタイリクを向いた


「小さくて悪かった...」


「あ?」


「悪かった...」


「はい?」


「耳障りで悪かったって言ってるでしょ!?」


「...ッチ、いきなり大声でどなんなよ…お前もう喋んな」


ジェーンは睨むようにタイリクを見た。


「...何よ、ウザっ」


そう捨て台詞を吐いて去って行った。

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