残酷にして絶望を呼ぶ宣告


 これから話すことは、話したいことはサイにとって辛いこと。だから、先に甘える。


「お嬢様?」


「サイ、と呼び捨ててくれると助かる」


「……。サイ、いったいどうしたと」


 サイの突然の甘えにアカツキはやはりとんでもないことが起こったと思ったようだ。心配そうに、気遣うようにサイに呼びかける。


 サイは自称で呼んでほしい、と頼み、アカツキの疑問に答える口を開いて先は一気に、畳みかけるように喋った。そうしなければ心が耐えられなかったから。心に負った、負わされた傷が無惨に裂けて血を噴きそうだったからだ。アカツキは黙って聞いていた。


「サイ、そいつらは今どこだ?」


 黙って聞いていてくれたのだが、サイが話し終わった、ウッペでの冷遇、追いだしに新しい主人の優しさと愛情、もしも、先々で彼らと、ウッペの者と一戦を交えねばならないとしてどうしたらよいか、との言葉、質問に返されたアカツキの声は殺気を孕んでいた。


 今にも飛びだして、ウッペの者を噛み殺してしまいそうなほど。いやいやいや……。


 いきなり獣が飛びだしてきてひとを喰い殺したらまずい以上のナニカだ。っていうか本当にこのひとはサイのことになるとアホの片鱗を見せるほどに過保護だ。超過保護。


「アカツキ、落ち着いてくれ」


「落ち着けませぬっ! よくも、よくも」


「だがこれは脚本シナリオに書かれている予備線の一本にすぎない。古巣の悪意など」


 不意に、声が聞こえてきた。知っている声であり、この声もまたサイが聞きたかった声のひとつ。鴉の声だ。と、サイが思うより早くアカツキは威嚇の体で構えている。


 まるで鴉がどこからか現れてサイを殺すことを懸念しているかのような。そんな空気。


「もう、よい頃ですな」


「?」


「もうそろそろ、あなたは死ぬべきだ」


 アカツキの厳戒態勢に驚きつつ、心で苦笑いしながら宥めようとしたと同時に鴉がなにかとんでもないことを言った。いい頃合い、というのはまだいい。サイに理解できる音の羅列だ。だが、続いた音はあまりにも簡潔で残酷なことを言った。死ぬべき、と言った。


 サイはもちろんアカツキも硬直してしまう。あまりにも軽く言った。重い口調であっても軽くサイに鴉は死ねと言った。サイは呆けてしまってなにを言うこともならない。それはアカツキも同じなのか、口を開けて固まっている。それくらい軽々しくサイに願った。


 死ぬべき時が来た、と。死ね、と。


「か、らす……?」


「なんでしょう」


「え、あ、私……」


「言うなっ! 黙れ鴉、腐れ道化め! よくも、お嬢様によくもそのような非情なこ」


「そうだ。非常識なほどに非情だ。だが」


「だがもクソもあるか! よりによってお嬢様に死を願うなどとどういう腐った頭だ!」


 淡々と喋る鴉にアカツキは牙を剝きそうな勢いで口角泡を飛ばしながら怒鳴り散らしている。しかし、そんなことで怯む鴉ではないので、残酷の続きを、なんの感情もこめずに言った。それがサイを傷つける、と知り、サイを絶望させる、と知りつつ告げる。


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