寄り道を希望
「マナ、もうすぐ朝餉だそうだ」
「ふむ。サイは朝に強いな」
「そうでもない。戦国に来てから慣れさせたにすぎず、慣れないとどこぞの説教魔が」
説教魔がうるさい。そこまで言いかけてサイは口を噤んだ。銀色の瞳にあるかすかな悲哀と苦しみ、痛み。もう、ウッペは敵。なのに、思い出は消えない。消えてくれない。
時たま襲う頭痛の頓服薬はサイの妄想を消してはくれるがウッペでの幸福を消してはくれない。最初薬を飲んだ時はマナにずいぶんと心配そうにされたが、信頼できるひとが親切でくれたものだから大丈夫、と説明して納得してもらった。……多分。
マナも常飲していないようなのでそこは安心したようだが、なんの薬か、という質問にサイが答えられないのを、答を持っていないことを察してつつかないでくれた。
サイが心が楽になる、と言って答えたのを信じてくれている。だから、以上にサイを悪戯に探る真似をしない。こういうところが大人なんだよなぁ、とサイはしみじみ。
「お食事です、マナ様」
「あるじも、ごはん」
「うむ。食べたら出発じゃ。サイ」
「ん?」
「わしらはカシウアザンカに一泊の健診に寄るが、主はどうする? 健診もアレはケチったか? よければ共に受けようぞ」
アレ、とはおそらくファバルのこと。マナのファバル滅べは日増しに強くなっていっている気がするサイだが、健診は受けたばかり。そして、そこで残酷を言い渡された。
そのことを伝えると、なるほどとばかり頷かれ、食事をつつきながらマナは目で訊ねてきた。自分とツチイエが健診を受けている間、暇を持て余しているのも可哀想だが、かといって医療大国に娯楽のなにかはない。だが、もしも、したいことがあれば……。
「小道に入るまでのところでおりたい。近くに知りあいがいて、顔を見せておこうかと」
「知りあい? カシウアザンカの近隣に、か? 大病を患っている、ということかの?」
「いや、すごく元気なひと。だけど、私のことを大切に思って心配してくれているから」
最悪、殺してしまったとして、その罪をどう清算すればいいのか、清算できるものなのか、訊ねたかった。そして、それと同時に訊いてみたかった。自分のことを。
この間はついぞ訂正できなかったし、詳しく聞けなかったがどうして彼はサイを「お嬢様」と呼ぶのか。あとはなぜあそこまで庇いたてて甘やかしくれるのか。
わからない。なにもかも。
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