買い食い


「さて、よいものをいただけたことじゃ。買い食いでもしていこうかのう、ツチイエ?」


「御心のままに」


「でも、屋台のものって」


「安心しろ。とうにお前の鬼が調査済みだ」


 言われてサイが見た先にいるカザオニは麻で編んだニット帽のようなものを兜の代わりにかぶっているが、そのデザインがヒヨコさんなのは突っ込みどころだろうか?


 突っ込み待ちなのか、と思っているとカザオニがツチイエを威嚇しつつサイに大量の買い物を渡してくれた。この地方の伝統料理であり、それでも庶民の味。いわゆるB級グルメというやつだろうか? 食事系が三品に、お菓子がひとつ、と甘くない菓子がひとつ。


 わざわざサイの為に甘くない食後の菓子を物色してきてくれたのでサイはカザオニの頭を、もっと言うとヒヨコちゃんをなでなでしておく。ヒヨコを再現するのに羽毛をあしらってあるが、やはりどう考えても突っ込みを期待しているとしか思えない。


 それとも萌え、というのを狙っているのだろうか? 迷ったがサイは触れないことにしてマナとツチイエにも食事系の買い物をわけるのに近くの屋台のおばさんに紙の皿を数枚もらってきて近くの空き地のような場所で座って食事を小分けにする。


 サイなどは小食なのでツチイエに多めに食べてもらうように盛りつけ、マナに皿を渡すとマナは優しい笑みを浮かべてサイの頭をやんわりと褒めるように撫でてくれた。


 ツチイエもサイの気遣いに礼をするようサイの頭をポンポンと軽く叩くように撫でる。が、直後カザオニに手をビシッと叩き落とされていた。「主に気安く触んなゴラァ!」とアテレコしつつ、サイはカザオニを鎮めて彼にも功労の証、と言って皿を取らせた。


 四人はそこから時折味の感想を言ったり、祭の感想を述べたりしながら軽食を食べていく。焼き飯のようなものに烏賊のたれ焼き、とうもろこしの丸焼きを齧っていく。


 が、サイは早々にギブアップし、食べかけで悪いけど、というので一番安いゲソを齧っていたカザオニに残りの食事ものを食べてもらい、カザオニがわざに探してきてくれた塩風味の焼き菓子をサクサク食べる。結構塩味が効いているので苦もなく食べられた。


 サイが鬼のお使いで買ってきた菓子を食べるのを横目にマナは野林檎の飴包を頬張っている。小ぶりな林檎なので可能だが、これが普通サイズの林檎だったらマナの口が裂けるな、とサイが変な心配をしている間にツチイエが食事の跡を片づけてくれた。


 カザオニはいつの間にか消えていたが宿に先まわりしているだろうと思い、サイはマナが立ちあがるのを手伝って自分も立つ。マナは満足という表情でツチイエの腕に掴まり、片手をサイに伸ばしてきたのでサイは恥ずかしがりながらそっと握る。


 優しい人肌のぬくもり。今まではココリエやルィルシエがくれていたものを変わりなくくれるマナの優しさに感謝し、宿の者にひとり分、食事不要を伝えてくれたカザオニにサイは感謝した。もう一個もなにも入らないくらい腹八分目だったからだ。


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