面白射的で無自覚荒し
「おや、なにやら面白そうな屋台じゃな」
「んー? 射的かなにかだろうか」
ココリエのことをふと考えかけたサイを見抜いたようにマナが声をあげた。女王の視線の先には暗器による的当てのような遊戯の屋台。男女問わず盛りあがっているのでたしかに面白そう。背の高いツチイエとサイには見えるので人々の頭越しに子細を眺める。
どうやら景品は糸で吊ってあり、その糸を狙ってなまくらにしてある暗器で切り落とせれば景品贈呈。万が一景品に傷をつけたらお買いあげしてもらう、という決まり。
腕試しにちょうどいいかも。サイがそう思うと同時にマナが指差した。その先にあるのは繊細な飾り彫りが施された芍薬の花簪。マナに似合いそう、というのと、マナも気になった景品なのでツチイエと視線で意見交換し、サイが挑戦することになった。
ツチイエが代金を払う横で他の男の子たちも女の子たちにねだられてその簪を狙っているが、その簪は特別細い糸で吊ってあり、些細な風ですら障害になりうる。挑戦する男衆は悪戦苦闘している。その横でサイは遊びに使う暗器を受け取って適当に構える。
で、そのあとは一瞬だった。
ビュっ、ずがっドス、ベキ、ベキベキミキ……ドズーン! ……もはや射的にあるまじき音がしてマナが目をつけた芍薬の花簪が下に張られた網に落下した。
「む。なかなか加減が難しい」
「……。サイ? なにが起きた?」
「ん? 投げた。糸どころか壁を貫通。向こうの雑木林に立っている木の幹に当たって威力に耐えられず、着弾点で木が豪快に折れた臭い。もう少し弱く投げるべきか……」
実に軽くとんでもないことを言う娘だ。
これには屋台のオヤジさんも他の挑戦者たちもびっくり仰天でサイを畏怖の目で見ている。が、サイはといえば屋台のオヤジにとりあえず取った簪寄越せ、とばかり手をだしている。オヤジさんは首をガクガク、と壊れかけ人形のように振ってサイに景品を渡した。
サイはそれをマナに渡し、「次、なにが欲しい?」と、首を傾げて意見を求めた。
マナはサイの可愛い仕草とツチイエの微妙な顔を見て笑い、次の景品を次々指差していく。暗器の数は難易度を考慮された為か計十本。一本投じたので残りは九本だが、それが全部景品を落としたら? それも値打ち物ばかり狙われたら? 考えてオヤジの顔は蒼白。
だが、もう遅い。サイはマナに求められるまま、マナが目をつけた値打ち物ばかりを正確に落としていく。結果、用意していた高級景品十個全部マナのモノとなりました。
景品はいずれも帝都で手に入れてきたものばかりなのでオヤジの目尻には光るもの。
ツチイエは心の中で合掌し、それでも主君が嬉しそうというより楽しそうなので笑いがでてきてしまう。が、サイの膂力のほどが本格的に怖くなってきた。特に最初の一投も加減していたのだろうし、それでいて木をもへし折る威力にはつい、冷や汗が噴きでる。
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