雨日の視察


 雨が降っている。皐月がすぎ、水無月の候がやってきてからは毎日のように雨が降り注いでいて大地もぬかるんでいる。滑らないように気をつけながらも買い物をする人々の傘の群れが鮮やかだ。傘の群れから少し距離を置いた場所に傘と笠がひとつずつ。


「えーっと、この辺は異常なし、っと」


「あとは青果市の方か」


「そうだな。そこほど見て今日はもうあがろう。これ以上はサイが風邪をひく」


「夏の手前で風邪をひいてもバカと言いたいか? 期待されているようなので殴るか?」


「どうしてそうなる」


 本当に。ひねくれ思考が半端ではない。


 ウッペの城下町フォロを見渡す傘と笠。ココリエとサイが視察に来ていた。アレから、半刻はんときほど仮眠したココリエ。それとセツキに差し入れを持っていったりしていたサイは一通り城下町の中でも特ににぎわう一角を視察して少し言葉交わす。


 だが、先に述べた通りサイは今日もひねくれ気味である。ココリエがサイのことを話題にあげたのは彼女が傘ではなく笠をかぶって来ているからだ。傘なら風が吹けばそちらに向けて倒して雨粒を避けられるが、笠は両手が自由なだけ雨に対する防御が薄い。


 サイもそんなことは百も承知だが、もしもの事態に傘が邪魔でことがあってはならないからと笠を選択しているのだ。だから、ココリエの心配も余計なお世話、と認識して要らん鬼魂をだしている。


 まったくもって扱いが難しい女である。素直なクセにこういうところは素直に受け取らない。ひねくれまっくすで受け取って暴力に訴えようとなさりやがる。


「あー、少し休憩するか?」


「寝足りないのか?」


「いや、雨に打たれて疲れたろ? サイには劣るが美味しい茶を淹れてくれる店があるのだ。買って休憩に一服しないかな? と思ってな。余も徹夜続きで少し、な?」


「……わかった。店はどこか? 買って来よう。雨宿りできる場所でも探してくれ」


「露店なのだ。えーっと、あ、ほらあそこ。屋根に茶の印が見える」


「了解だ。では、あまり遠くにはいくな」


「サイ、余はこどもではないぞ」


 サイの駆けつけられる範囲からでるな、という言葉にココリエは膨れてみせる。守ってくれようというのは嬉しいが、立場が逆になってしまうのは悲しい。うん、複雑。


 サイはココリエの態度を不思議がっていたが、どうでもいい感じにさっさと茶の露店に買い物へいってしまった。


 なので、ココリエもあまりサイから離れない範囲で雨宿りできる場所を探して彼女に背を向けて歩きだした。


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