悪魔のぶつぶつ


「なぜ私が、なんで私まで……」


 気持ちはわかるがぶつくさ言うのはいい加減やめていただきたい。と、思ったのはひとりではない。場所はココリエの執務室。部屋にいるのは三人。部屋の使用者たるココリエと業務補助のサイ。遊びに来たルィルシエだ。


 ルィルシエはようやく一仕事終えた顔でサイを見て満足そうだが、吐かれるぶつぶつには困った顔をしている。何度も言い聞かせたが、それでももう一度だけ、言う。


「仕方ないのですよ、サイ」


「んなわけあるか、嘘つき」


「もう、そんなこと言っちゃいけません。本当に仕方がないのです。サイだけではありませんわ。ケンゴクもあの髪をどうにかするのに奮闘していますもの」


「アレはあいつがだらしないだけだ。私の普段着になんの問題があるか、ボケ」


 とうとう暴言まででていった。


 こんなことがセツキに知られたら確実に特大の雷を落とされる。ルィルシエに告げ口するつもりはないが、誰が聞いているかわからないのに、あっさりぽろっと暴言しちゃいけない。まあ、サイがそんなこと気にする筈もないのだが。


 セツキ、というか彼の説教を嫌っていても、気にはしていないので。困ったことに。


 だからぽいぽい暴言さんが飛びだしていくのである。最近はセツキも説教を諦め気味だが一応の義務感でガミガミ言っている。右から左されようと、お構いなく。


 で、話を元に戻すと、サイは普段のサイらしからぬ姿をしている。


 どう見ても彼女のお小遣いで買えなさそうな上等そのものの着物を身に纏い、髪を簪で結いあげていてとても眩しい姿だった。さらに装飾品としてどこぞの蛇王が送って寄越した首飾りをかけられ不機嫌マックス破裂寸前の爆弾状態でらっしゃる。


 ジグスエントが見繕っただけあり、首飾りはサイによく似合っていた。誰も面と向かっては言わないが。言った時点でそいつは土の下にいくことになるのだから。


 小さな金剛石を細かく散りばめて華のように見立て、サイを宝石が如く輝かせている。


 他の一般的なこの島国の人間ではちょっとどころかかなり派手でとてもじゃないが似合わない。しかし、サイは瞳の色が石の色によく似ているのが起因してかしっくりだ。ジグスエント的にもサイこそ大輪の花と思っているっぽいので思惑叶ったりだろう。


「サイ、ほんの数日の我慢ですわ」


「一瞬も我慢したくない」


「それくらい聞きわけてくださいっ」


「やじゃ。アホ王女」


 ああ、いつまで続くんだ、このすごく、この世で一番無意味な問答。と、同じ部屋にいるココリエは思っているのだが、言わないでおく。


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