目に痛いです
とばっちりが来ても困るし、それに時折仕事から目をあげてサイを盗み見ては心がとろけるようだったからだ。それくらい、今日のサイは美しい。
いつも美しいが今日は、今日ばかりは本当に格別だった。豪華な装飾品も身に着け、身嗜みがいつも以上に洗練されている。普段、着物を着る日もあれば海外の服を着る日もあるサイだが、ルィルシエがうるさいのと王の命令だったので折れてしまったご様子。
そして、絶賛後悔中というか愚痴ぶつぶつ状態である。着飾ることなど今までのサイが歩んできた人生でなかったのだろう。だから余計に抵抗がある。
しかし、ルィルシエはサイの抵抗など完無視で着飾らせた。そして、完成した姿に惚れ惚れしている。いつもだったらココリエも少し制止する。だってサイの爆弾が破裂したらルィルシエの可愛い顔に風穴が開くかもしれないし。だが、今は感謝の念で満腹。
こんなこともなければサイが着飾るなどと天変地異だ。前触れじゃない。そのもの。
――
「ココリエ様、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わない。入ってくれ」
ココリエは緩んだ顔を引き締めて一声戸の向こうに許可をだしてから仕上げた仕事を箱におさめた。基本的にココリエの仕事はセツキが確認して終了する。
サイの仕事はココリエが確認する。ルィルシエと不本意ながらじゃれているサイの仕事はとうの昔に終わっているので、お咎めが来ることはない。……筈。
「失礼いたしまする」
そこにいたのは予想通りの男。セツキ。セツキは恭しく、いつも以上に礼儀を払って部屋に入り、後ろにいた誰かたちを迎え入れるように部屋の隅へ移動した。
これにココリエが「ん?」と思っていると元気な、というか甲高い声が聞こえてきた。
「失礼いたしますわ」
「え? あ、は、い……?」
許可なのか微妙な許可をだされたことに相手はなにも思わなかったようでそのまま入って来た。で、部屋にいた三人それぞれに反応した。ひとりは目を細め、ひとりは呆け、ひとりは完全に目を閉じた。どれが誰なんて、ねえ?
「はじめまして。あなた様がココリエ王子ですの? お噂はかねがね……」
「はあ、どの噂でしょうか?」
「まあ、ご自身のことですのに」
部屋に入って来たのは少女、ルィルシエとそう歳が変わらない若い娘だった。彼女はその、なんというのか、非常に目をやられる着物を身に纏っている。
金糸雀のような、というかそれから本当に羽根を毟ってつくられたような着物は金糸銀糸を用いて豪華絢爛。まさしくそれ、というふうでとても一般人は着られない。
だが、少女にはどういうわけかとてもよく似合っている。普段から着慣れているのか、堂々としているのが原因のひとつであるのはたしかだ。と、ココリエは思った。
ただ、思って納得してもやはり目に痛い色であることに変わりないので失礼かもしれないが目は細めたままだ。それに完全に瞑っているサイよりはましだと思う。
よく見ると少女は虎目石を使った首飾りをも身に着けている。これだけの視覚情報で察せないのはよほどの阿呆である。かなり高貴な身分の娘なのだ。
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