伍章――シレンピ・ポウ
お願い、ナニカ
私は、どう在るべきか。
何度そう、訊ねただろう。
誰かであり、誰でもないナニカに。
このままで、いいのだろうか? こんな
こんなふうに在ってくれ、と在ってほしい、と願ってくれたお前は、レンは私に幸福を願って逝った。だが、私はどうしても、到底、許せないし、赦せない。
あの時の迂闊さを今なお恨み、呪い、悔やみ続けている。どうしても、苦しくて……。
傍から見れば滑稽だろう。六年も前のことを、すぎ去ったものをどうしていつまでも、そう言って笑われても仕方がないのは知れている。でも、だけど、だって。
もしかしたら、と思ってしまうのは私の弱さであり、バカ臭さであるのはわかっているつもりだ。喪い、失ったものは返らないし、帰ってきはしない。
わかっている。わかっているとも。
頭では理解しているの。もう、どうしようもないってことは。どうすることもできないことも。あの時、例え私が今の
アレの狡猾な様。私の油断。お前の自己犠牲精神からなる無上限の愛と勇気。すべてあわさったからあの結末であの結果が私に突きつけられた。そして、絶望した。
だが、絶望し、世界に失望していたのに私は生き続け、この両手を血染めにし続けているというのは滑稽の極みなることか? それとも他のなにかなのか? わからぬ。
誰に訊けば望む答がえられるのか。望まない答だったら私は
ずっと前に立ち塞がる敵を殺してきたし、その罪から、命を奪った罪悪から逃げるつもりはなかったし、これからもない。殺しただけ、私は深く、堕ちるだろう。
殺人の罪から逃げないクセ、望まぬ答から逃げようなどと弱すぎる。いつまでもいつまでも……いつまで経っても私の本質はガキのままだ。変わらない。
ハイザーにも指摘されたし、あんのクソ腹立つ守銭奴の情報屋、クイン・セ・テーにも言われたが、どうしてこう、成長がないのだろう。肉体は日々つくられるのに。
心が体に追いつかない。それともこれは愛されなかったが故の業、なのだろうか?
本当に安心して心身共に預けられるひとに出会えず、甘えられなかったせいで今も私はガキで、バカで、臆病で、不甲斐なく、情けなく、どうしようもなく愚かなの?
だって、そうだ。
私は今、不可解なナニカを抱えている。でもわかる。誰かに言われるまでもなく。
それは、いけないことなのだと。
抱いてはいけない、持ちえてはならないナニカだと。易く、理解できる。だから、お願い。ナニカよ、私の心を圧しないで。これ以上に潰さないで。お願い、だから……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます