王子の喜び。蛇王の不満
サイが、あのサイがココリエを頼りに? ココリエのことなど戦国の噂以上、以下? まあどちらにしろかなり過小評価して弓の腕以外はかかしの代わりにもならない、といつだか言っていたのを聞いているのでそのサイが自分を頼ってくれたのは嬉しい。
多分、現実的、実際にはウッペへ報せにいけ、とかいう命令だったのだろうが、サイの中の認識が嬉しいのだ。ウッペイコールココリエという方程式をつくってくれているのがもう嬉しすぎて本当に涙がでそうだ。
感涙しそうなココリエとは逆にジグスエントはかなり苦々しい顔をしている。カザオニを睨んでいた王はサイに悲しそうな目を向けて甘く囁いてきた。
「わたくしのなにが不満だと言うのです?」
「すべて。己の存在に生理的嫌悪を抱く」
ひでえ。生理的嫌悪って、それってつまり生物として嫌いってことで、ジグスエントを本当に蛇扱いしているようなものであり、同じ人間だと思っていないに同義では?
まあ、誘拐されていろいろされたようだし、その認識を責めることはできないココリエである。苦笑しているとサイはカザオニに凶器をおさめるように言い、コトハを絶命の緊張から解放した。コトハは表情にこそださなかったがほっとして、尻もちついた。
「ハクハもやられたようですね」
「心配無用。しばらく脳味噌に不備があるかもしれないが、生きてはいる。残念だが」
……。えぇと、とココリエはサイの恨みの深さを改めて痛感した。配下の者にすらも恨みを抱いているとは。しかも生きていて残念って、どーんだけだぁ?
殺してしまいたかったのか、そうなのか?
でも、返ってくる答がなんとなく想像つく上に怖い思いをしそうなので訊かない。この歳でさすがに夜中厠にいけなくなることはないと信じたいが、サイの言いまわしは時々へたな怪談よりよっぽど怖い。まあ、サイの話す怪談もかなり怖いらしいが。
ルィルシエが昼間のお茶時間にほんの興味本位で海外の幽霊ってどんなですか? みたいなことを訊いた時、いや、その日から数日に渡って夜中怖くてひとりでいけないから一緒に来て、と厠いきに起こされた、とサイがココリエに愚痴っていた。
ココリエはサイにまだルィルはこどもでその上怖がりだからと宥めついでに訊いてみようかな、と思ったがやめておいた。暇潰しの話題にもたまにおどろおどろしいのがあるのでそれの強力版と思しき怪談など聞いたら今度はココリエが夜の厠にいけなくなる。
なので、賢明ココリエさんがココリエ本体にやめとけ、後悔するのはわかり切っていると思うから。と進言してきたので、怪談については忘れることにした。
どうやら、この城に仕えている忍をひとりは昏倒させたようだし、これで充分に罰もくだった筈だ、と思いたいがサイはいまだにジグスエントを呪い殺さんばかりに睨んでいるし、微妙ながらも殺気立っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます