悪鬼との協力


 そして、確証としてカザオニが教えてくれたので間違いない。の悪鬼が掴んできた情報。しかも、彼が寄越してきた木簡には報せにいくのはサイの指示、と書いてあるのでカザオニは彼女の指示を仰いだ。もといサイの命令に従っている。


 そこまでココリエが理解したのを見計らってかカザオニは新しい木簡を投げてきた。


 それにはサイの計画が書かれていた。正確にはサイが望んでいる計画。


 ウッペがオルボウルに詰め寄り、問い詰めている隙にカザオニがサイを解放する。それであの蛇、と書いているがおそらくジグスエントのことだろう。彼をだし抜く気でいるようだ、というか、だし抜いてざまあ、したいのだ。


 そこにココリエはサイの恨みつらみ、呪い心を見た気がした。よくも自分を虜囚などというものにして繫ぎやがって的な。なんというか、サイらしい。


 女の恨みは怖いと言うがサイの恨みは格別怖いというか次元が違う気がする。だが、計画しているのはいいが、これがジグスエント、切れ者と知られるあの王に知られる可能性はないのだろうか? と、思っていると三つ目の木簡が投げられた。


「……。なるほど。フロボロにカザオニが圧をかけにいく、か。それは戦国の鬼に命を狙われたとあればあの肝の小さい王は震えあがって事情を吐く。そして、その情報を元に堂々とオルボウルへ殴り込み……カザオニ?」


「……」


「あのな、戦はせぬぞ?」


「?」


 ココリエの冷静な突っ込み。


 だが、カザオニは「え、しないの?」みたいに首を傾げてしまった。


 どうやらこの鬼、サイを救いだす為ならウッペが同盟国に殴り込みをかけていろいろ各所から非難を浴びようとどうでもいいらしい。いや、ウッペの勝算を確信してサイが無事に帰られるようにさえあればいいのか? どっちにしろずいぶんと偏った思考だ。


 サイが無事でいればいい。サイが望んでくれるままサイを助けてあげられればいい。


 それ以外のことなど知ったこっちゃない。


 ウッペがどうなろうが、サイが生活できればどうでもいい。最悪ウッペなど捨てて自分と自由奔放な生活をしてくれてもいい、と思っているかもしれない。


 まあ、その方がサイらしい、と言えばサイらしいが。自由に、気ままに気の向くままに弱者の為に在るサイだから。一国に縛られていては救えない命や弱き者がいることも当然知っている。なのに、メトレット戦のあとで「あばよ」と、去らなかった。


 ココリエに傷痕を見せ、悲しみを吐きだして、泣き叫んで、朝の刻から陽が暮れ切ってしまってもずっと泣いていたあの姿。アレは、ほんの少しでも心を許してくれた証なのかもしれない。だからこそ、サイはウッペに留まった。居場所を、見つけたように。


 ならば、サイを、早くあの憐れで強くとも弱くて可哀想な娘を在りたい場所に帰還させてやらねばならない。


 ココリエが心を決めて父親、やっと噎せ終わったファバルを見る。とやれやれこれは仕方ない、とばかり、おどけて肩を竦めてみせた。どうも、ファバル王すら息子ココリエと同じ結論にいたったようだ。


 ファバルもココリエと一緒にサイの心に深々と刻まれて消えない、一生涯消えることのない傷痕を見ている。聞いている。だから、せっかく見つけた居場所から引き剝がされて牢獄に繫がれて不自由こうむらされているのを見捨てるのは人情に反する。


「では、カザオニよ」


「……」


「フロボロへの圧を任せてもよいな?」


「……」


 カザオニは無言だったが、ファバルの言葉にこくんと再び頷いた。その様子からしてなんだかこちらの思惑が通じてというか、思いが通じてよかった、というのが見えた。


 ……。もしも、思惑に副わなかったらサイに相応しい居場所でないとして、消されていたとか、そんなことはない、と信じたいが……。なんか、やりそうで怖い。


 だが、ひとつわからないことがある。


「カザオニ、どうして、そなたはサイを?」


「……」


「サイはそなたを敗北の沼に落とした唯一。なぜそれを救おうとする? 再戦、か?」


「? ……」


 ココリエの言葉にカザオニは首を傾げていたが、やがて新しい木簡、というか切れ端を取りだして筆でさらさらら……となにか短く書いてココリエに投げ渡した。


 なんで投げるかな、と思ったが、カザオニが新しく寄越した文章一行で全部納得した。


「あのひとは俺の絶対の主にあらせられる」


 カザオニの行動すべて不可解だったが、これでようやく合点がいった。カザオニはメトレット戦のあとどうしていたのかは不明だが、でも、最終的にサイを絶対の主君に相応しい女性だと認め、彼女に仕えることを自らの至上なる喜びとしたようだ。


 だから、彼女と今のところカザオニより近しい、近しく見えるココリエに冷たくというかきつく当たって敵意を伝えているのだ。主に近づくな、ボケ。気安くするなよ、とか恐れ多いんじゃこら、みたいな? もうなんだ、心酔している、と取っていいよね?


 カザオニはココリエに一度顔を向けてからわざわざ背ける態度を取ってその場を立ち去った。早速フロボロに洗いざらい吐け、とジグスエント以上の脅しをかけにいったのだ。と、なればこちらものんびりできない。支度をといていなかったのでそのまま出立した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る