暴言の嵐ここに


「サイ、訊きたいことがあります」


「私は己と利きたい口がない。消えろ」


 なんつー剛胆な女、いや、もはや剛胆云々で片づけられないくらいにすさまじいアレさ加減である。と、背後に控えている者たちは思考を同じくした。ついでに冷や汗がダバダバ背中を伝って落ちていくのを止めたいと思いながらも強張った顔で耐えている。


 カザオニの来訪から八日、サイは毎日栄養満点の食事を食べさせられながら、その前後どちらかでジグスエントに弄ばれ、もとい口づけの戯れをやられて気分最悪低迷。


 カザオニにウッペに報せてジグスエントの鼻を明かしてやれ、と命じたはいいが、口づけは慣れない。と、いうか毎度毎度徐々に激しくなっていっている気がするのでサイはそろそろ身の危険を感じはじめていた。ついでに気分が最悪の底すら破って彷徨っている。


「ふふ、では、口が軽くなるようにわたくしの愛をたっぷりと刻んで差しあげ」


「じゃ、舌食い千切って二度と喋れなく」


「訊きたいこと、というのは他でもありません、サイ。わたくしに忠誠を誓い、わたくしの為に仕えませんか?」


「やじゃ、死に腐れクソジグスエント」


 びくっ。ジグスエントの後ろでハクハとコトハが震えた。まるで、ジグスエントがサイの暴言に対してサイ、ではなく自分たちに八つ当たりの罰を与えるのを恐れるよう。


 あと、ジグスエント、この冷酷無慈悲でありながら頭脳明晰、眉目秀麗などなど北方一有名な王にクソとつけて魅惑の交渉に唾を吐いたのにも若干ぶるっとキた。


 ――どんだけ怖いもん知らずよ、このコ。


 そんなハクハの心の声が聞こえたのか、サイはジグスエントの後ろを一瞥して冷ややかに言い放った。ジグスエントを呪いつつ、ハクハたちにも呪詛を吐く。


「己に仕えると考えただけで嘔吐ものだが、さらにそのかばね以下が同僚などと胃液すら吐き切って二度と食事を消化できなくなってしまう。胃潰瘍だらけか栄養失調であとは死ぬだけだが、それもこれもここにいることを考えるととても魅力的な終わり方だ」


「そのようなこと、許すとでも?」


「私の生死に己の許可など要らぬ、という普通の思考ができない時点で脳味噌が逝ってしまっていて残念確定。変態的常識でなく一般常識を学んでから来いもとい死ね」


 ……。えぇと、ここまでのところでハクハとコトハ兄妹は寿命が半世紀分以上削られた心地になってしまったし、サイのひどすぎる暴言にハクハが落ち込む。


 初見の頃はまだましだった。まるで死骸のにおいを嗅ぐ駄犬の扱いだった。なのに、今は駄犬どころか死骸以下の扱い。いや、もしかしたらでサイの語彙がもっと広く多ければさらにひどいのがでてきたかもしれない。……なんていやんな可能性。


 さらに苛烈な言葉の暴力とか想像だけでこっちの胃が荒れてしまう。


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