無駄口のあとに
無駄話をするサイの前で変な黒装束の忍は苦笑したような気がした。呆れの苦笑。
「君さ、なんかずれてね?」
「む?」
「いや、こっちが無駄口叩くならまだしも、あきらかに追い詰められているそっちが率先して無駄口叩くとかどういう神経しているのかな~って不思議に思ってね」
サイの無駄お喋りを不思議に思った男はそれでも自分たちの優位をしっかりわかっているので別にサイがそこからなにかするとか、そういうのを警戒していないようだ。
甘いこと、である。サイを知る者ならば、詳しく知る者、ウッペの者だったら絶対に油断しない。サイがそもそも無駄に喋ること自体天災地変の前触れ以上にそのものだというのに。これがココリエだったらサイのいつもには絶対にない無駄口で蒼白になった筈。
「私が、なんの意味もない口を利くと?」
「はい?」
「誤認識を改めよ、阿呆」
一応の忠告を口にしたサイの両脇に氷の
サイの手が振られ、
礫はサイの話し相手を狙っていたが、男は常人には考えられない身のこなしで躱し、結果男の背後にいた者が代わりに集中攻撃をもらうはめになった。
氷の礫四つを受けた、受けさせられた男の体は見るも無惨に破壊されていった。
いや、それは破壊などと生易しいものではない。究極の刑罰に値するような、かなり非情で惨いものであった。氷の礫が当たった箇所が不吉な音と共に凍てついていく。
肉が腐るにおいが辺りに充満。
右肩、腹、右太もも、顔が氷に覆われ、侵食するように腐敗していく。やがて腐敗は、腐食は忍の肉を千切った。首から上が、右肩の先が、胴体が、太ももの中心が腐ってもげた。ガシャン、バリンと音を立てて忍の肉は砕けて岩の地面の上で赤い水になった。
結末を見ていた男が再び口を開いたが、声には先までなかったものがあった。固いと言うか、硬質な色を孕んだ声で男は恐々とサイに確認を取ってきた。
「時間稼ぎだったってこと?」
「見たままだが?」
「えぇー、なにこの
「イミフ」
本当に。向こうから襲って来たクセに怖いから勘弁してとはどういうことだ。
だが、どうやらそれで退きさがるつもりはさらさらないらしい男は手をあげてサイの知らない、指文字とは違う奇妙な手信号で後ろの配下と思しき忍たちに合図。
一気にサイとの距離を潰しにかかる。もとい、死に向かって自ら飛び込んだ。これぞ飛んで火に入るなんとやらであろう。サイはだが、油断しない。なんの策もなく忍ともあろう者が無謀に飛びかかってくる筈がない。
サイは
だが、そんなことは百も承知でサイは一番乗りで飛びかかってきた忍の持つ暗器をするり、と本当にこともなげに躱してそのまま忍の顎と腹部に拳で一撃ずつ入れる。
ぐちゃりぶちゅっ、といやな音がした。
肉や臓が潰れて挽き肉にされる音。うすら寒い、背筋が凍る恐ろしい音と共に一番乗りの忍は血煙となって消えた。サイの拳がだすあまりの超威力に極限まで鍛えられた忍の体も耐えられなかったのだ。血煙となった忍の陰でサイの姿が消失。
そして次に現れた時、もうすでに忍隊は半壊の憂き目を見ていた。フロボロの絶景ポイントが血で塗られる。血の海が広がり、血臭が満ちるそこで悠然と立つサイは先に会話していた男を見たが、男は特に動じたようになく、であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます