黙秘こそ正義だなんて狂っていると思うから

 大好きな空間を護るために…。

 だって、って守るためにあるものでしょう?


 クレーマーは苦手。

 コールセンターで仕事をしていた時にすごく嫌な気持になったから。

 だから、普段はよっぽどの事がないと店員さんに声をかけたりはしない。


 だけど、舞台は約2時間止める事ができないから、迷惑行為をしそうなお客さんがいたら開演前にスタッフさんに伝えておかなければならない。

 ある日、帽子をかぶったお客さんが私の数列前に座っていた。

 そのお客さんの帽子には、ビジューやスパンコールが付いていた。

 さすがに開演したら外すかと思ったのだけど、最後まで外されることはなかった。

 シルクハットみたいな視界の邪魔になるような高さではなかったけれど、装飾品に照明が反射して後列に座っていた私は眩しくて不快だった。

 演者推しに『かわいい』『かっこいい』と思われれば、他の人はどうでもいいの?

 苦しくて苦しくて溺れてしまいそう。

 ここはコンサート会場じゃないのよ?

 私達はあくまでなの。

 ステージ上の人達には干渉できないルールなのに。

 誰かへのアピールに使わないで…。

 黙っていたら後悔することをこの日学んだの。


 また別の日に、後方ブロックで観劇をすることになった。

 その舞台は、既に数回観劇済みでどのシーンで誰がどこにいるかも把握済み。

 開演前に自分の席に座ると、目の前に座るお客さんが高身長のかたで少し前傾姿勢だった。

 私の席からだと、大好きなシーンが頭に隠れて見えなくなっちゃう。

『もう何回か見てるシーンだし、今回は諦めて別の場所を見ることにするか…』

 なんて思っていたら開演を告げるブザーが鳴る。

 案の定お客さんは終始前傾姿勢で、椅子の背もたれに背中をつけてくれていない。

 まぁ、そのぐらい熱中しちゃう内容なのはわかるんだけどね…。

 場面転換のちょっと長い暗転の時。


「すみません、背中を背もたれにつけてもらってもいいですか?ステージが見えないので」


 私の隣からそんな声が聞こえた。

 目の前に座っているお客さんに声をかけてくれたんだ。

 そのおかげで、見たかったシーンもしっかり見ることができた。

 舞台終演後、私は隣に座っていたお客さんにお礼を伝えた。

「あの、先程はありがとうございました!見たかったシーン諦めてたので助かりました」

「いえいえ。私も諦めようかと思ったんですけどやっぱり我慢できなくて。お役に立ててよかったです」

 そんな私達のやり取りを、少し迷惑そうに前列のお客さんは見ていた。


 また別の日、別の劇場で。

 その劇場では、会場内に装飾品が飾られていました。

 天井部分からタペストリー的なものが吊るされていたんです。

 私が会場入りしたら、その装飾品を撮影している若いお客さんが居ました。

 スタッフさんが気付いていないみたいだったので、恐る恐る声をかけたんです。


「あの、会場内は写真撮影禁止なので今撮った写真削除した方がいいですよ。スタッフさんにカメラロール見られて削除されるかもしいれないから」

「え、あ…ごめんなさい」


 そのお客さんは、私に謝罪してスマホを操作していた。

 どうやらちゃんと画像を消してくれたみたい。

 安心して自分の席に向かおうとした時、私の耳に言葉が流れてきたんです。

『本当に劇場内って撮影禁止なんだね』

 耳を疑うってこういう感情の事を言うんだろうな…。

 だって、この舞台の公式HPにはちゃんと【観劇マナー】のページがあって、そこにちゃんと書かれてるんですよ?

 劇場内の飲食だったり、帽子とかの頭物やヘアアクセサリー等の視界を妨げる要因になりやすいものとかについても。

 声をかけたお客さんの言い方的に、ちゃんと公式HPは確認していたみたいだけど、どうしてそこに嘘の情報が書かれてると思ったんだろうか。

 そんなはずないじゃない。

 でも、この時に思ったんだ。

 こういう人達が居るから、どんなにマナーについて学級会を開催してもキリがないんだなって。


 何気なくSNSを眺めていると、私が観に行った舞台のステージ写真を載せて『観劇してきました!すごく楽しかったです』と文章が添えられていた。

 今回の運営スタッフさんかな?

 気になって投稿主のアイコンをタップしてみると、別段今回の関係者というわけでは無いようだったが、プロフィールには演劇関係のお仕事をされている内容が記載されていた。

 はぁ……。

 私みたいに注意喚起ばっかりしてる人間だって、本当は純粋に舞台の感想をたくさん投稿したいんだよ。

 それでも、大好きな作品を護りたくて注意喚起をしているの。

 どんなに頑張っても、最終的には関係者がルール破ってるんだもんね。

 今までの頑張りって何だったんだろうね……。


 私、何のために劇場に通ってるんだろう。

 寮母でも何でもないんだよ…私って誰でもないんだよ。

 何の権限もないただの客でしかないはずなんだよ。

 それでも私は…いや、誰かが魔女狩りをし続けなければならないのね……。


 何だかもう………疲れちゃったね…。

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