霧の中へ隠された物語

 ある日、SNSを眺めていたらとある舞台公演のお知らせが流れてきた。

 その舞台は、本公演のスピンオフ。

 IFであってIFじゃない…そんなお話しでした。

 劇場名を見たら、私にとっては初めて行く場所でした。

 コンビニでチケットを発券したら2階席の最前列だった。

 私は、高所恐怖症とかではないけれど…。それでもやっぱり、少しドキドキする。

 その舞台では、いつも客席を照明が照らす演出があって正直『眩しい…』と感じてしまう事もあったんだけど…。

 いつもと違う劇場の、いつもと違う2階席からの景色。

 舞台は、座る座席によって観える世界が変化するから面白い。

 そのことを知っているでいたけれど、やっぱりそれはだったんだと思い知らされた。

 2回観劇したその舞台では、1階席と2階席それぞれで観劇したのだけれど、視点がこんなにも変わるとは思っていなかった。

 1階席で観劇する時は、多少の高低差はあれど登場人物達と同じ高さに居るので、それぞれ人物の感情こころに触れることが出来る気がする。

 けれど、2階席での観劇は上から見下ろす形になるので、感情こころに触れるというよりも、まるで箱庭を外側から傍観している気持ちになった。

 観劇中、客席をキャットウォークから照明が照らしている。

 照らしていたのは1階席だけだったからか、劇場内に漂うスモークに照明が反射するからか、2階席から見下ろす景色は霧の様なヴェールに覆われて隠されてしまった。

 その光景は、あまりにも幻想的で…。

 いったい、このヴェールは私から何を隠そうとしているのだろうか。

 もしかしたら、いつも劇場で客席を照らしているのも、ステージ上と客席の目に見えない境界線を感じさせないための効果だと思っていたけれど…。誰かから何かを隠そうとしていたのだろうか…。

 事前に1階席で観劇していたので、このタイミングは場面転換だったりしているのを知っていたけれど…。


 きっとこの時、私の中に理性という存在が無かったら…。

 この霧に隠されてしまった世界を知りたくて、何もかもを飛び越えて飛び込んでいたかもしれない。

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