夢のナカ

“愛している”も“愛されている”も、実は与える側の言ったもん勝ちだったりするのかもしれない。


 ―――――――――


 いつからだっただろうか…。

 同じだけど同じじゃない…なんだか不思議な夢を見るようになった。

 大きな桜の樹を前に、童話に出てくるようなお姫様と1人の男性が立っている夢。

 夢のほとんどは、お姫様の歌声を樹に背を預けた男性が聞いているだけ。

 だけど、今回は珍しく話しかけてくれた。


「君は、あの桜の木をどう思う?」

「毎年春になると、桜の木の近くは沢山の笑顔であふれていますよね」

「愛されていると?」

「はい。それに、お母様が毎日木のそばで歌っていますもの」

 きっと桜の木も、同等の愛を感じ取ってくれているはずだもの。

「あんな事をされていても?」

 男性が指差す方に視線を向けると、見知らぬ男性が枝を手折っていた。

 その時、折れた枝の先から紅い液が流れたように見えた。

 庭師が枝を剪定せんていするのは、人間でいうところの枝毛を切るとかに近いのかもしれない。

 けれど、私利私欲で枝を手折る人間は『アナタの指先とても奇麗ですね。一本もらっていきますね』ってことなんだろうな。

 そして、過程を知らない人は「ありがとう。素敵な花ね」なんて笑顔で受け取るの。



 泣いている。

 何処かで、沢山の涙が溢れている。

 私は舞台が好きだから。

 大好きで大切な存在は護りたい。

 私にはもう、失う存在なんてないんだから。

 これ以上土足で踏み荒らされたくないの。


 気が付いた時には、私の手には1本の鎌が握られていた。

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