私の小さな住処

 私は、子供の頃に反抗期が来なかった。

』というよりも、反抗する意味を見つけられなかった。

 反抗期が来なかった人に対して、誤解する人も多い気がするんだけど、反抗期が来なかったからといって、『良い子』だとは限らない。

 私だって、自分の意見を理解してほしかった。

 でも、私の言葉を理解してくれそうな人達が周りにいなかったから、反抗するのは無駄だと悟っただけのこと。

 でも、それってものすごく不健康。

 自分の中に、ずっと不満をためておくことになってしまうから。


 ある日、友達と遊びに行くためにリビングを通って玄関に向かおうとしたら、親に呼び止められた。


「どこに行くの?」

「友達と遊びに」

「友達って誰?場所は?」


 そんな尋問が増えていくようになって、楽しいはずの外出がストレスから始まってしまう。

 それが、ものすごくもったいなくて嫌だった。

 社会人になってからもこの状態が続くから、私はお金で解決させることにした。


 親の監視下から逃れるために選んだ場所は、約1.5畳の小さな空間でした。

 インターネットは使い放題で、トイレや飲み物にも困らない。

 シャワーも完備されているし、湯船に浸かりたかったら近所の銭湯に行けばいい。

 日払いの派遣業務をしながら、駅前にあるネットカフェに通うようになった。


 実家に暮らしていた時…。

 舞台観劇や友人と遊ぶ日の前日は、仕事終わりにミッションが始まる。

 それは、親が帰宅する前に必要な荷物を回収してネットカフェに避難すること。

『お金の無駄使い』って思う人もいるかもしれないけれど、それでもこうしないと自分の精神を保っていられなかった。

 ネットカフェのスタンプが増えていくカードを見ながら、同時に『なんでこんなことしなくちゃいけないんだろう』とも思う。

 だって、ネットカフェを利用する金額があれば、舞台の物販でなにかグッズが買えたかもしれないし、帰りに何か食べれたかもしれないじゃない。

 少なくとも、L判のブロマイドセットは買えたよね。


 親に、いかに気が付かれずに外出先から帰ってくるかも難しい。

 荷物が多いと疑われちゃうからね。

 だから、物販で買い物をする時はかならず持参した鞄に入る分だけ。

 劇場に行く時、ブロマイドを買いたかったらビジネスバックを背負う。

 あんまり、大きなカバンで行くと置き場所に困ってしまうけど。

 クロークやコインロッカーを使用できる劇場もあるけれど、キャパの小さな劇場ではほとんど見かけない。

 でも、ビジネスバッグならほとんどの座席下に入れられる。

 100均で買ったA4サイズのファイルに、L判ブロマイドを収納できるリフィルをセッティングする。

 ファイリングすることで、折れ防止にもなって荷物も減るから便利なんだよね。


 それか、親が仕事から帰って来る前に帰宅できそうな時には大きめのグッズを買った。

 部屋に帰ったら思い出に浸りながらも、部屋の電気は消す。

 なぜかって?

 それはね…。

 部屋の電気をつけたままにしておくと、後から帰ってくる親に私の帰宅がバレてしまうから。

 今日観た舞台の内容を、脳内再生したり小声で友人と通話なんかしたり。

 楽しかった思い出を、誰にも邪魔されたくなかったから。


 ほら…瞼を閉じて。

 そうしたら聴こえてくる。

 開演5分前の劇場内アナウンス。

 さぁ、また彼等が動き出す。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る