解読不能

 コールセンターという職業柄、普段誰かと目線を合わせる事が少ないんですよ。

 人と目線を合わせながら会話すること自体が苦手なので、俯きながら会話することが多いんです。

 でもね…。

 そんな私にも、長時間目を見れる時があるんです。

 それはね、舞台を観ている時なんです。

 とある舞台を観に行った日、とても笑顔が素敵なキャストさんの目がなんだかすごく気になったの。

 物理的に、演者キャストの視界には私達観客が映っているはずだけど、その瞳には何か別のモノが映っている様な気がして…。

 私は口元を覆ったハンドタオルの奥で、『貴方は今、何を見て何を感じているの?』と声が出そうになってしまった。

 思わず手をステージへと伸ばしそうになったあの感覚は、今でもよく覚えている。

 その前からも、足を運んだ舞台では演者キャストの目を見るようにしていたけれど、その時はよりいっそう穴が開くくらいに……。

 でも、終演後に挨拶をしてくださる時には誰とも視線を合わせたくなくて、逸らしちゃうんだけどね(笑)

 だって、カーテンコールの時って役じゃない方が多いから…。

 お客さんの事を、“観客”として認識して見るでしょう?

 それがね…私には耐えられなかったの。

 あ、好き嫌いの話じゃないんだよ?

 むしろ、個人的には裏話とかが聞けるから、キャラとしてのカテコよりも役者としてのカテコの方が好きだったりする。

 単純に、目を合わせて会話ができない人っているでしょう?

 それと一緒なんだと思うんだ。

 だって、考察しようと思える事って少ないから…。


 だからね、私が自分の意志で誰かの瞳を観ようとするのは、観劇している時だけなんだよ。


 劇場から出て、家に向かう帰り道…。

『私もいつか、彼等が見ている視界せかいを知りたい』

 なんて思ったりもした。

 知ったところで、私にはどうすることもできないのにね。

 彼等を助けることも、守ることも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る