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いつか、ネット記事で現代人の恋愛離れについて読んだことがあった。

非婚化や晩婚化が進んでいる現代にとって、

この恋愛離れという現象は予報されていた雨と何ら変わらないのかも知れない。

むしろ、明日の雨予報の方が重要なのだろうか。


そんなことを空気中に浮かべては、

数字の羅列を罫線上に書き写していく。


あの公開告白から二か月、僕らには何の進展も何の後退もない。

朝はおはようとあいさつを交わし、夕方はまたねとさよならを言い合う。

他人以上、恋人未満とはこのことを言うんだろうな、

なんて暢気に数学のノートにペンを走らせる。

ふと、一つだけやたらと鳴るペンの走る音に気が付いた。

そちらに目をやると、音の持ち主は逢沢さんだった。

出席番号順で一番の逢沢さんは必死に教師の言葉に耳を傾け、

事細かにメモを取っている。

その横顔には、優等生の余裕だとか、軽視はなく、

むしろ、この時間を有意義だと楽しんでいるようにも見えた。


これが彼女を優等生たらしめる理由だったらしい。

きっと彼女はこの授業の後、教卓まで質問をしに行くだろう。

テスト前の問題集なんかも、余分に貰うタイプだ。

偏見だろうか、いや、実体験だ。


こんな風に、この二か月の間にときめく進展などなかったけど、

僕は少しづつ彼女の事を知ることができた。

むしろ僕はその方がよっぽど有意義だと思っている。


例えば、彼女は要領が悪い。

優等生特有のあの周囲の無茶振りは、

ここまで来ると最早故意的なのか?とも思えてくる。

彼女が毎日毎時間、手を痛めて完成させた完璧なノートは、

要領のいい居眠り常習犯によってまるまるコピーされ、提出される。

それに何の違和感も不快感も覚えないのが彼女だ。

その行為に、何の罪悪感も覚えない周囲もどうかしている。


彼女はお人好しだ。

用事が有るから掃除当番を代わってくれと頼まれれば、

快く代わってやって、雨が降ってるから気を付けて、なんて言っていた。

代わってもらった女子生徒は帰り道に友達とマックに寄って

シェイクを飲みながら談笑している、なんてざらだ。


そんな彼女の人柄を、性格を考慮しても

僕は、彼女の事を本気で好きにはなれないのだった。


______むしろ、少し彼女の事を苦手になった。








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