21gの幸せを飲み込めたなら。
薮柑子 ロウバイ
21g
_________
幸せを追い求める権利を有しているなら
きっと、幸せを拒む権利だってあるはずだ。
「__好きです、付き合って下さい__!」
まぁ、そんな権利があったとしても
主張出来なければそれはただの空想の域を超えないのだけど。
クラス中の視線と期待がじりじりと僕の肌を刺している。
なんだこれは。公開処刑か何かだろうか。
ひとりの女子生徒と僕を囲むクラスメイトの冷やかしと囃し立てる声。
___どうやら僕は、公開告白のヒーローに抜擢されたようだ。
「ヒューヒュー!早く返事しろよ喜咲~!」
「男気みせてやれー!」
あぁ、いったい何なんだ。
そもそも僕は、彼女の事をよく知らないし、興味もない。
クラスメイトだ、くらいの情報しか持ち合わせていない彼女。
どうでもいい、思考がそう言って解決策を放棄しようとする
いや、思い出せ、思い出せ。
彼女の名前くらいは思い出せなきゃ自分の老後が心配だ。
「逢沢さんがんばれ~!」
「絶対お似合いだって!自信もって逢沢さん」
あぁ、そうだ思い出した。彼女の名前、逢沢 幸だ。
秀才にして美人、人柄もいい。そんな人気者な彼女が
何で目立たない僕なんかに告白するのかは1㎜も理解できない。
というか何勝手にお似合いだなんて言ってくれてるんだ。
これじゃもっと断りずらくなったじゃないか__!
そんな言葉が唇の間から漏れ出しそうだった。
いや、どんな反応だったとしても、答えなきゃいけない。
僕はぐっと喉に詰まった恐怖を飲み込んだ。
「____僕は…」
君とは付き合えない、そう言いかけた。
それは僕の精一杯の勇気と、僕なりの覚悟だった。
___だったのに。
ただ、その決意はその一瞬の囁きで打ち砕かれ、崩れ去った。
「これ、逢沢さん成功しないと可哀そうだよね__。」
背筋に嫌な汗が伝っていく感覚と共に、
色んな考えが僕の思考回路を占領して騒ぎ立てる。
僕が断ったら彼女はどんな気持ちになる?
周囲は彼女をどんな風に見る?
期待を募らせている無責任な観衆は、
この幸せを拒む僕を、どう評価する?
答えはすべて出ていた。
彼女は惨めで、恥ずかしくて、悲しみに暮れるだろう。
周囲は彼女を慰めるつもりもなかっただろうから、
きっと反応に困るし、苦い顔をするだろう。
だから、眉目秀麗で成績優秀な人気者の彼女から好かれていた
なんて分不相応な幸せを拒む僕は、きっと否定される。
横目で見たギャラリーの熱を帯びた目に、
もう僕は何も言えなくなって、最低さに身を沈めた。
「__ありがとう、こちらこそよろしく。」
浅い言葉が火ぶたを切ったように歓声を沸かせる。
涙を浮かべ、口元を抑えて嬉しそうに笑う逢沢さんがとても綺麗だ。
僕は笑い返す。
ごめんね、最低なんだ。
なんて言えないままで。
ごめんね、僕はこんな幸せを怖いと思ってしまっている。
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