第91話 項籍・項羽と韓信! (60)

 でもね、籍は? 先程まで、あれ程気にかけていたいた天井の四隅でなり響くラップ音を今は全く気にしていないと、言うか? まさか聞こえていないのではないのか?


 だって、籍の顔の表情は、先程【覇王妃様】や、以前【韓信様】を生け捕り。韓信彼女に解放をして欲しいと嘆願をされ、話しをしていた時のような、虚ろな目をしているのだよ。


 何かに取り憑かれたように。


 それどころか? 「籍?」と、パソコンのモニター画面から。猫の腕のように手招きをしながら。愛くるしい仕草で呼ぶ覇王妃様に籍は、「……ん? 羽、何?」と、虚ろな目で、ニヤっと笑みしながら答える。


 まるで酔った者をように。そして画面へと自身の耳を貼り付け当てる。


 すると覇王妃様は画面越しだが、籍の耳に自身の艶やかにほんのりと濡れた唇をキスをするかのように当てると、囁き始めたよ。こんな感じでね。


「韓信が儂らの覇道に力を貸してくれると申してきた……」


「えっ? そうなの?」


「うん、そうよ、籍……。良かったね……」


「あ、ありがとう……。全部羽のお陰だよ。本当に助かった。ありがとうね……」


「うぅん、いいよ……。全部愛するあなたの為だから、気にしないで……」


「うん、ありがとうね。羽……。本当に心から愛しているよ……」


 籍が最後にこう囁き終えると──二人はパソコンの画面越しだが、深いキスを始め出したよ。


 その様子はね、普通に男女がリアルでキスをおこなっているのと変わらない感じで交わしているのだと思う?


 だって、籍と覇王妃様のお互いの唇の中が、何かしら? 異物を含んでモグモグと、動き回っている気がするのだ?


 まあ、そんな様子の籍を見たら、『本当に大丈夫なの?』と、訊ねたくなるよ。


 だって? キスの相手の覇王妃様は、多分、物の怪の類だと思うから?


 此方も傍から見ていて、『大丈夫なのか?』と、籍の身を案じてしまう。







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