私小説的でありながら、物語の側面も持ち合わせる、ハイブリッドな作品だと思いました。
考えると、話の題材というのは著者の人生における経験の中に存在する。それをどう加工して作品にするかが、小説家の腕前である。
私小説のリアリティと物語のドラマ性がほどよく噛み合い、今までにないような印象もあった。クライマックスではまんまと感動させられて、これも腕前によるところかと感心させられた。
友人の旅の思い出から生まれたというこの作品には、旅に感動した筆者の気持ちが宿っているようだ。実際、読めば読むだけ旅に引き込まれる。旅自体が人を惹きつけるものではあるが、そこに生きているキャラクターたちの行動にも嘘がなく(実話が元になっているからではあるが)、読み手にも旅をさせてくれる。
残念なのは、読みやすいボリュームを心がけていることで、もう一歩踏み込んで書いて欲しい部分が割愛されているように感じることだ。しかしボリュームを気にせず書き込んだとすると、少し違った話になるかもしれないので、この点に関しては正直、何とも言えない。なので、そもそも旅とは当人が感じたことが全てだと腹をくくり、不足部分を自分で勝手に補完して楽しむべし、というのが私が考えた対策で、参考にしてもらえればと思う。
旅に魅せられたのか、作品に魅せられたのか。なんとも不思議な感覚を私は味わった。