55最後のトラブル

 葬式会場で半年ぶりに会う鉄朗は、いくらか背が伸びたようやった。


「おう」と鉄朗が手を上げる。

「おう」とオレが答える。

「ここまで何で来たん?」

「カブ」

「やるな」


 挨拶はそれくらいのもんやった。


 鉄朗は納棺の儀の場にも呼ばれた。親戚の間ではオレと旅をした人として名が通っていたので、疑問には思われなかった。


 伯父と叔母の家族も集まり、納棺の儀が始まる。婆ちゃんは車椅子に乗ってやって来た。葬儀屋の人は丁寧に説明をしながら死装束を整えて、故人が愛用した副葬品を納め始めたとき、オレは「あ」と思った。


「ノートが無い」と鉄朗が言う。

「おとん、施設から旅のノート持ってきてくれた?」


 聞くと、おとんはギョッとした顔で固まった。


「何してんねん……」


 オレがぼやくと、叔母さんが頭を掻いて「ここから施設まで行ったら葬式始まってまうけん、どないしょうと」言う。


 すると、従姉妹の姉ちゃんが「野武彦」と呼んでキーを投げた。

 投げられた鍵をキャッチする。リトルカブのエンジンキーやった。


「喪主が間に合わん訳にはいけんでしょ。車で家まで送ってあげるから、あんたそこからバイクで施設まで行ってき」


 姉ちゃんが手提げの鞄を持って言うと、鉄朗がカブの鍵を手に持って「儂も追いかける」と言う。オレは頷いた。


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