50 二十八日目 一番辛いのは一番しょぼい

 昼のフェリーがやって来るまで、オレたちはそれぞれ別行動で屋久島を観光することにした。小料理屋にこれまでの食事代を支払って、二日ぶりにカブに乗る。


 屋久島は外周130キロ。ガジュマルの樹や天然記念物のモダマ、新栗生橋などを見て、何度か雨に打たれつつ島を回る。晴れ間が出てきたときに、何十羽ものカラスが集まっている場所を見付けた。ヒッチコックでもおるんか、と思った。


島を回るなかで、畦道を見付け、興味本位で入って行くと放置されたキャンピングカーがあって、オレは「やべぇ」と思って即座に引き返した。


 道路に引き返し、港から対角線の位置にある通りを走っていたとき、反対から回ってきた鉄朗と出会った。北海道で覚えたバイカーの挨拶をしてすれ違う。


 互いに逆回りに港に戻って来て、一時半にフェリーに乗り込んだ。


 屋久島に別れを告げ、午後六時。鹿児島港から志布志港を目指す。

 途中、道の駅のベンチで最後に残っていたインスタントカレーを作って食べた。


 それからフェリーの待ち合い室で夜を明かそうとしたが、志布志港はこれまでの港と違って待ち合い室が無く、仮眠出来なかった。

 寝るところを探さなければならなくなったが、これまでの疲れで移動も億劫になり、公園のベンチで寝ることにしたが、雨まで降る始末。


 これでは眠れないと、雨を避けるために公園のトイレの前にある僅かに迫り出た屋根の下に身を隠した。


 固い地面も服も濡れ、ひたすら夜が明けるのを待ってジッとする。

 眠ろうにもスペースが小さくてロクに眠れない。トイレの前で座り込んでいるのも情け無い。オレはこの旅でここが一番辛かった。

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