48 二十七日目の3 バトルオブ屋久杉ep.3
苔の生す山の中、オレたちはひたすら階段を登り続けた。
雨と湿気に疲弊しながら、ようやく辿り着いた中継地点にはウィルソン株、という巨大な屋久杉の切り株があった。
切り株は空洞になっていて、根の分け目から中に入ることが出来る。切り株の中から空を見上げると、その切り株の縁がハートの形になっているらしいが、どこから見れば丁度良いのか分からず、他の登山客も多かったので、オレたちはハートを諦めて株の中から出てきた。
「ウィルソーン、アイムソーリー、ウィルソーン」
トムハンクスのモノマネをしながら、更に上を目指す。
二時間。登り続けていよいよ縄文杉の前にやってきた。
樹齢およそ三千年。
特に理由もなくここをゴールと決めたんが去年の梅雨ごろ。
今、そのゴールに辿り着くのかという感慨を胸に階段を登る。
「やっとやな」
鉄朗がぽつりと言った。オレは一層神聖な気持ちになって歩みを進めた。
そして縄文杉と出会った。
だが、結論から言ってオレはがっかりした。
確かに縄文杉は辺りの屋久杉と比べても遙かに荘厳で、25メートルにもなる樹高は身に迫るほどの勢いがあった。
問題は縄文杉の前に置かれた物見台。
床を黄色いストライプで塗られて、ここから出るな、と殊更厳しく注意されている気がする。毒々しい黄色のお陰で景観も台無し。
オレは自分でも驚くほどの怒りとやるせなさに打ちのめされた。
旅って言ったって、ただ北から南へ駆け抜けるだけやったのに。
どんな物が待ってたって、なんだってよかったハズなのに。
鉄朗も同じ感想を抱いているようで、看板にあった「立ち入らないように」という注意書きを睨んどった。
そんな時にふと思ったのは、出雲の大注連縄のことやった。
あそこまで大きなもとは言わずとも、警察のキープアウトテープみたいな品の無いもんにはせん方法があろうと思った。
「ケチが付いたなぁ……」
愚痴を言いながらも、写真に収め、また四時間かけて下山した。
下山しながら、オレは何をこんなに残念がっているのだろうと反芻していた。
答えらしきものは出なかったが、この気持ちも正直に記録するべきだと思った。
望んだような美しいゴールでなくったって、ゴールはゴール。
オレはここへ来たことだけでも、誇りに思えばいい。
この残念な気持ちだって、旅に出なきゃ分からなかったハズだ。
考えてみれば、一体どれだけの人が、幾つ有終の美を飾るのか。
誰もが成果の出ない日々を生きている。でも、成果が出なかったことと、何もしなかったことは違う。
オレは旅をした。
そして縄文杉前の物見台にがっかりした。そんな結果が出た。
望まない結果は腐葉土みたいなもんだろう。
土地さえ豊かになれば、いつか誰も知らなかった森が育つ。
そんなことを思う帰路やった。
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