46 二十七日目の1 バトルオブ屋久杉ep.1
朝、小料理屋の一階で目覚めたオレたちは、屋久杉を登る準備をした。準備と言っても、貴重品やタオル、カッパを入れた鞄にカメラを持ってジャージに着替えただけ。
早速バス停に行くか、と店を出ようとすると、店主が昼飯にとオニギリを用意してくれた。
それを持ってバス停に向かい、二十名ほどの登山客と共におよそ一時間バスに揺られ、荒川登山口に着いたのが朝七時。登山口には大きな掲示板があって、それによれば縄文杉まで片道四時間掛かるとあった。
「四時間て……」
そもそも登山が苦手なオレは吐き捨てるように言った。中学の頃に学校行事であった登山では、あまりの肉体へのダメージに嘔吐した覚えがある。生徒の集団を離れ、山の頂上の展望台で休んでいたら、祖父母らしき人と一緒に登山していた子どもから食べ物をプレゼントされるという心温まるワンシーンもあったが、貰った食べ物がドーナツで、飲み物を持っていなかったオレは口の中のあらゆる水分を奪われながら、それでも懸命になって「ありがとう」と言ったものだ。もちろん、その後にも吐いた。
まだ雨は降っていないが、夜明け前に降ったのだろう、地面は濡れている。
回りを見れば、他の登山客は一様に登山靴を履いている。スニーカーはオレたちだけ。オレは先行きを恐ろしく思って唾を飲み込んだ。
「ほんじゃ行こか」
鉄朗はあっけらかんと言って歩き出した。
「クソフィジカルモンスターめ」
オレは頭を振って、その後ろを追った。
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