39 二十四日目の1 出雲とボベ飯

 田舎の家を出て十時ごろ、オレたちは島根を通り日本海沿いに出た。

 昼前には出雲大社に着き、少し観光して行こや、と寄り道。


 日傘を差して平らな石畳の境内を歩く観光客たち。

 神楽殿の入り口に掲げられた巨大な大注連縄に圧倒されながら散歩していると、どこからか雅楽が聞こえた。


「これプロ・ツールスの音源とかやったらオモロいな」とオレ。

「操作間違えてテクノが流れ出したら、最高やな」


 相変わらずしょうもないやりとりをしつつ、本殿から離れて境内の池に近づいた。

 鏡の池と呼ばれるその池には、白い蓮の花がぽつぽつ咲いとった。


 池の横の遊歩道を一通り歩き、草木生い茂る緑廊の下を潜って参道へ戻ってくる。

 所々に置かれた大国主神や因幡の白ウサギの銅像を眺めつつ、国歌に出て来るさざれ石を見たあと、観光を終えて出発した。


 それから一時間後。オレたちは道の駅ロード銀山に到着し、昼飯を食べた。

 オレはざるソバ、鉄朗はうどんとボベ飯のセットを頼んだ。

 ボベ飯はボベ貝というものを炊き込んだご飯で、その語感の奇妙さから、オレは飯を食うあいだ中「そのボベどうなん? どれぐらいボベっとん。鉄朗、ボベっとるか? 何ボベくらいボベっとんねや?」とおちょくった。

 最終的には「じゃかぁしいわ」と怒られた。


 道の駅を出て、また走る。


 田舎を走っていると、時折目に留まる個人商店には著作権が浸透していなかった頃の名残で明らかに許可を取っとらんアンパンマンやセーラームーンのイラストとよく出会った。

 オレたちはそういうモノに出会う度に、それらを指さして「イエローカードよ」と忠告して回った。(特に意味はない)


 五時ごろ、閑散としたゲームセンターを見付けて、そこで少し遊んだ。

 お客はオレたち以外に誰もおらん。

 麻雀も知らんのに脱衣麻雀ゲームに興じてボロ負けしたのち、陽が沈む前に県境を越えて山口へと入っていった。


 家を出てまだ150キロほどだったが、久しぶりのツーリングということもあって、もうヘルメットの重みで首が痛かった。


 ちょっとストレッチしよや、と浜辺に止まって夕陽を眺めながら伸びをしていたとき、電話が鳴った。


 電話に出るとバンドに誘ってくれたクラスメイトの友人で、やはりどうしてもキーボードが要るということで、夏休み最後の二週間くらいは練習に出てくれという。一度誘いに乗って断ったこともあって申し訳無く思い、鉄朗と相談して旅の行程の見直しを行った。


 その結果、目的は屋久島やから九州はすっ飛ばしてもええか、となった。

 予定が決まったのでスマホで鹿児島港から屋久島へ出るフェリーの予約をしたが、このとき、オレは重大なミスを犯した。


 一日早めに予約を取ってもうた。

 これが後の「デス・ラン」になる。


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