38田舎について

 八月十日の夜。


 昼から走り続けて田舎に戻ってきたオレたちは、明日のため晩飯と風呂を素早く終えて布団に潜り込んだ。


 家の前で鉄朗と再会してから、禄にまともな会話をせずにここまで来たが、メシを食ってるときも、近場の銭湯で風呂に入ってるときも(田舎の風呂はいよいよシャワーも浴びられないほど風化し始めとった)、日常の会話しかしなかった。


 言うても精々半年遠くで暮らし取ったぐらいやし、そんなもんか、

 とそう思いながら枕の位置を直してたら、


「そういやな、五月ぐらいに彼女出来てん」と鉄朗が切り出した。

「ほんまか。どんな子?」

「吹奏楽部の子で、向こうから話し掛けてきてな」

「ほう」

「なんやかんやあって付き合うことになって、休日に家呼ばれてな」

「急展開やな」オレは仰向けから体を横にして鉄朗の方を見た。

「家に誰も居らんくて、昼前に行ったら、メシ作ってくれる言うてな」

「ええやん」

「そしたらカレーを作ってくれてな」

「ああ、去年の旅で死ぬほど食ったな」

「せやろ。インスタントカレーを魔改造しまくって、色々やったやん」

「おう。にんにくカレーはアカンかったな」

「トマトとか、アスパラとか、あのへんが相性ええんや」

「そら分かったけど、その子とはどないなってん」

「いやいや、関係あんねん。自分らでカレーをアレンジしまくって食ったお陰でな、その子のカレーがなんちゅうか、普通やってん」

「そら一発目で彼氏に食わせるカレーで冒険はせんやろ」

「ああ。でも儂は感想を聞かれて、普通やな、って答えてん」

「……振られたやろ」

「……せやねん」


 そこでオレはハッとして、布団を飛び起きて言った。


「お前、傷心旅行に来たんやないやろな?」

「んな訳あるかい。何やねん傷心旅行て。旅に失礼やろ」

「別に失礼なこたないけど」


 オレはまた布団に入っていった。すると鉄朗が、


「あぁ~、あぁ~、あ~あ~」と両手を天井に向けて揺らしながら嘆きだした。

「めっちゃショック受けてるやん」


 そうツッコムと、鉄朗がゲラゲラ笑った。

 明日のために早う寝ようと言ったのに、結局は十二時頃まで下らない話をした。

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