29 十八日目 逗留の4

 バイクの故障で図らずしも帰省する形になって四日目、おとん経由で叔父さんがその話を聞きつけて、朝一番にやってきた。叔父さんは何にも無いし暇だね、と言って、知り合いに連絡して海まで釣りに連れてってくれることになった。


 やってきたのは気のよさそうなおっちゃんで、トラックの荷台に載せられて畦道を走り、港へ来ると、そこから小舟に乗って海洋へ出た。


 小さい船に積まれたエンジンは強力で、オレと鉄朗とおっちゃんを乗せていながら猛スピードで海面を跳ねるように駆けた。船体がバンバンと水に叩かれる音がして、振り落とされないように縁に捕まりながら、海に手を突っ込んでみたら、顔に飛沫が跳ねて塩辛かった。


「どっかの孤島をぐるぐる回って裏面出そうぜ!」と鉄朗。

「バナナの鳥助けないかんなぁ!」


 いひひひひひ、とオレたちが笑い合ってると、おっちゃんも何のことやら分からんが、というように笑った。


 船は小さな無人島に着いた。おっちゃんは夕暮れには迎えに来る、と言って去ってしまったのに少し驚いたが、小中学生やないし、大丈夫やろうと思われたんやろう。


 釣り竿を持って岩壁に立ち、餌を付けて竿を振る。

 初めにベラが釣れた。案外美味いらしいので、おっちゃんが持ってきたクーラーボックスにしまう。


 またベラ。ベラ、ベラ……。


「鯛とか釣れへんかなぁ」


 鉄朗がベラの口から針を外しながら言う。


「カワハギとかならおるやろうけど」

「あぁ……。ところでカワハギって何でカワハギって言うか知っとるか?」

「皮剥ぎやすいからやろ」

「せやねん。でもオカシイやろ。それやったらカワハガレやがな」

「んなもん舌切り雀かてそうやないか。だいたいそういうもんは人目線やねん」

「傲慢なもんやで。カワハガレちゃいました、やで」

「甘栗剝いちゃいました、みたいに言うなよ」

「舌切ったった雀やわ」

「絶対子どもの仕業やろうな」

「あいつら生き物に対して暴力の限りを尽すからな」

「男子の大半はアリを殺すことに余念が無いでな」

「ほんでカブトムシとカマキリの異種格闘技戦を取り仕切ろうとするんや」

「だいたい何も起こらんけどな」

「捕食の関係にあれへんからな」


 またベラが釣れた。


「モリも持ってきてたやろ。ちょっと海入るわ」


 鉄朗は早くも釣りに飽きて海パンに着替え、シュノーケルとモリを装備して海に飛び込んだ。水泳が得意な鉄朗は、波を立てずに海に沈んでいった。


 少しすると上がってきて、ウミウシが居た、とかウツボがおったとか、よく分からんがデカイやつが居た、と教えてくれた。

 モリで戦ってみたが、収穫は無いようで、それからは水泳を楽しんでいた。


 それから小さいフグが釣れてリリースし、カワハギが何匹か釣れて、夕陽が落ちる前におっちゃんが船で戻ってきた。


 クーラーボックスを借りて、調理の仕方を教えて貰い、家に持って帰って料理をしたが、二人とも日焼け止めを忘れて悶絶しながらの調理となった。

 醤油一つ取るのにも「バァアアアイスィク!」とクイーンの曲みたいな声が出た。


 魚は塩焼きと煮付けにして、ごはんと食べた。

 昨日は漫画だけ、今日は釣りだけの一日やった。

 パーツ早く見付からんかなぁ、と思いながら、今日も眠る。

 だが何となく、このまま夏が終わるような気がしとった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る