22 十二日目 デンジャーおっさん

 道の駅風の丘で目が覚めると、モトクロス乗りの三人組みがやって来た。

 彼らはオレたちのバイクと荷物を見て、


「カブ?」「50でしょそれ」「若いねぇ」


 と笑いながら言った。これからどこへ行くのとか、北は天気が崩れてるとか、当たり障りの無い話をしていると、バイクのメンテはしてるか、という話になった。


「一回縦断する程度なら大丈夫かなって」と鉄朗。

「チェーンは大事にしなよ。ほらこれあげるから」


 兄ちゃんからチェーングロスを丸々貰った。

 北海道のメロン(まだ持ってる)に引き続き、二度目のわらしべイベント。

 それ以外にもちょくちょく物を貰ったり、ジュースをくれたりする人と出会っていたが、オレたちは金も少ないし貰いっぱなしや。というようなことをその兄ちゃんに言うと、


「今、若い旅人少ないでしょ。それだけで嬉しいよね。気にすることないよ」と言ってくれた。


 そらえらいすんません、と会釈して、会話もほどほどに別れを告げる。


 次はどこに行こう、となって、オレは「せっかく石川に入るし、兼六園を見たい」と言ったが、二時ごろ、鉄朗のパンクがあったり、またしても雨に打たれたりして予定が崩れ、流れてしまった。

 

 昼はコンビニの弁当、夜はうどん屋に入り、九時ごろにまた別の道の駅に到着した。今日はここで寝ようか、と考えていたところ、


「兄ちゃん! 旅の人か!」


 妙にみすぼらしいおっさんがデカイ声で近寄って来た。おっさんはママチャリで日本を一周しているそうで、今日はここに泊まる、君らもどうだ、と誘ってきた。

 その誘い方が、何と言うべきか、尋常やない。


「泊まって行きなよ! 泊まって行きなよ!」と繰り返す。


 この十一日間の旅で、幾度か出会った旅人たちは、みんなそれぞれが行き先を強制しない人たちばかりやった。旅は常に出会いと別れ。すれ違うことを前提として、その時すこしだけ会話をするようなものと心得ている人が基本やった。


 だが、このおっさんは執拗に「泊まって行きなよ!」と責め立ててくる。

 そこで鉄朗と出した答えは、「良くて変態、悪くて殺人鬼」であった。


「もうちょっと先に進みたいんで」


 と断ってそそくさと道の駅を去る。

 しかし、ここから出た後、眠れそうな場所がしばらくなく、公園を見付けるまでに時間が掛かり、この日は合計300㎞を走った。


 昨日から今朝までは良い流れやったのに、運は続かんな、と嘆きながらベンチに眠った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る