21 十一日目 心の景色とボンダンス

 北海道から雨と曇りの続いた九日間、この日ようやく天気が張れた。

 秋田に入って日本海沿いを走った昨日、そのまま南下して新潟に入り、今日は次の目的地を「道の駅風の丘米山 」に決めた。

 

 その距離、およそ150㎞。これまでの経験から、七時間ほどだろうと推測して走り出した。


 雲の無い青い空、青い海、海岸線。

 これでもかという位の夏が、ようやくオレたちの前に現われた。


 海を右手にひたすら走っていると、海へと降りる階段を見付けた。

 ちょっと寄ってみるか、と二人で浜辺に足を付けた。


「なんじゃあれ」


 鉄朗が浜辺のずっと先を指して言うた。山をくり抜いてトンネルを掘られた道の脇に、妙な空洞がある。砂を踏んで歩いて行ってみると、入り江があった。


 三角に抜かれた自然の岩の屋根の隙間を縫って、海水が静かに流れ込む。

 海面に当たる太陽光が反射して、岩の屋根をきらきら瞬かせとった。


 入り江を避けて更に浜辺の奥へ行くと、今度は人工的に作られた洞穴と出会った。

 明かりはなく、出口の景色だけが覗き穴で見たように映っている。


「めっちゃ怖い」とオレ。

「写真撮ったら、どえらいもん映るんちゃうか」

「止めとけ。カッパの呪いで十分や」


 写真には撮らず、洞穴を進んで見る。抜けた先にあったのは、そり絶つ岩石が散らばった荒々しい海やった。

 オレたちはしばしそこで「修業編」と言って岩の上を飛び跳ねたりポーズを取って写真に収めたり、流木の上を歩いたりして遊んだ。


 満足して、バイクに戻り、走る。

 途中とんかつ屋で昼食を食べて、また走る。


 日本海に夕陽が落ちてきた。

 なだらかな海の上に、一筋のオレンジが伸びていく。地平線の海は黒が濃い。

 群青の空は、夕陽との狭間に僅かな黄色と緑を滲ませていた。


 晴れていれば、ここには何時もこの景色があるんやな。

 そう思うと、オレは心に景色を持った気がした。

 誰にも奪われへん景色。もしかしたら、旅人たちはそれを探しとるんかも知れん。


 バイクを駐め、写真を撮る。

 本音半分、バカにされるつもり半分で鉄朗に「いやぁ、心の景色だな」と言うと、思い掛けない言葉が返ってきた。


「爺さん、喜ぶとええな」


 ほんまにな、とオレは答えた。


 暗くなった海岸線をひたすら走ると、太鼓の音が聞こえてきた。

 近寄ってみると『納涼、盆踊り大会』と書かれた灯籠を見付けた。


「お、ボンダンスか。ちょっくら邪魔するか」と鉄朗。

「ええなボンダンス。ボンダンスしばこう」


 少しだけ祭に参加して、名の通り丘の上にある道の駅へ向かい、一日は終わった。


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