20 十日目 カブ大集合&不運五連発
道の駅で朝目覚めると、そこに中型スーパーカブに乗った旅人が一人やって来た。その兄ちゃんと少し会話して、この先に川原毛大湯滝、というえげつない温泉がある、と情報を聞いたところで、チョッパー改造のカブがまたやってきた。
リトルカブ(オレ)
スーパーカブ50cc(鉄朗)
チョッパーカブ
スーパーカブ110
が朝早い誰も居ない道の駅に横並びになる。
「ここでヤマハの展示会だ!!」
はしゃぎ始めた男たち。
一通り写真を取り尽くし、オレたちは教えて貰った温泉を目指した。
山道をローギアで登っていくと、やがて山間に白煙が見えた。
そこにあったのは源泉そのものやった。
山肌の中間、灰色がかった泥がぶくぶくと泡立ち、そこから煙が立ち上っている。
湯沢市の看板で『危険 有毒ガス発生につき注意』と書かれている。
あたりを立ち込める硫黄の臭いを振り払いながら、さらに先へ登っていくと、灰色の山に出会った。所々、硫黄が濃いところは薄い黄色が滲んでいる。
ここで採掘が1623年から1966年まで及んだ、と立て看板にはあった。
「こりゃあ是が非でも風呂に入らんとな」とオレが言うと、
「あれ見ろ」
鉄朗が別の看板を指して言った。そこに、
「ここから大湯滝へは、途中歩道が決壊している為、行かれません。三途川よりお回り下さい」とあった。
ここまでの峠道、来るだけで一時間が掛かった。三途川へはそこを戻って更に進み、風呂を上がればまた峠を越えなければならん。
「なぁにが三途川じゃボケカスぅう! ほとんど山やないか!」
オレたちは山に悪態をついて先を進んだ。
すると即座に雨に降られ、あげくにオレは藪の中にスリップして突っ込んだ。
雨を耐えながら下山すると、かの有名な最上川に近づいた。
そのときには雨も小降りになったし、ちょっと見て行こうか、という気になっていたが、突然の豪雨にやられる。
5メートル先の視界が真っ白になるほどの雨。そんな中、トラック行き交う山道を走るのは死を覚悟した。
どうにか苦境をくぐり抜け、見付けたコンビニで雨を凌いでいると、鉄朗が慌てた様子で「荷物一個落とした」と言った。
どこで落としたかも分からない。中身はアイヌコタンで買った土産のバンダナや手袋、パンツなどが入っていたらしい。
つくづくパンツに縁の無い旅やった。
拾いに行くのは絶望的、と考えたオレたちは、コンビニで雨が止むのを待ってからまた走り出した。
だが、走り始めてすぐ、オレは異変に気付く。下半身に濡れた感触。
クラクションで鉄朗を呼び止めて、言った。
「カッパ、股間のところに穴開いてる……」
温泉には入れない、最上川は見られない、雨に打たれる、荷物を落とす、カッパがダメになる。不運の五連コンボ。
オレたちは「なんじゃこれ」という気持ちで互いの顔を見合った。それから、
「ハハハハハハハハハハ!」
まるで武将のような、居丈高な笑い声をあげた。
不運もあんまり積もると笑うしかなくなる。
もう行くしかねぇ、とまたバイクに跨がって、山形に入り、日本海へ出て来る。
北海道ぶりの日本海は、北海道と同じく曇っていた。
夜中に道の駅神林に到着し、ベンチで眠った。
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