15 六日目 アイヌコタン

 朝、キャンプ場を出たオレたちは、出発早々、阿寒湖周辺で熊の親子とすれ違った。子熊が二匹と母熊が一匹。先にそれを目視したのは鉄朗で、見たこともないハンドサインで森の方を差した。

 追いかけてオレも熊を見て、しばらく走ってからバイクを駐める。


「おったなぁ。熊」と鉄朗。

「ほんまやな。キツネに熊に牛に鹿、動物パレードやで」

「熊って時速70キロは出るらしいで」

「マジか。カブでは勝てへんな」


 いざとなれば戦う覚悟を決めて、バイクを走らせる。


 阿寒湖に到着すると、アイヌコタンが見えた。

 坂道に段々に立てられた土産屋や飲食店の数々。入り口のゲートの看板には巨大なフクロウが掲げられとって、思わず「ホグワーツに五万点」と呟いた。


 飲食店でオレは鹿肉、鉄朗はアイヌ定食(鹿肉のスープ)なるものを食べた。

 鉄朗の感想は「美味い、固い」という率直なもんで、オレも「美味い、臭くない」と答えた。


 相変わらず天気も悪いので、観光もほどほどに出発し、途中、足寄温泉というところで疲れを流し、また走り出す。

 日も暮れて夜になったころ、オレのバイクがガス欠を起こしたので、携帯缶でガソリンを補充した。


 そして案の定雨にも降られたが、北海道は道東と道央で全く気温が違う。

 雨の温度さえ違い、鬱陶しくはあるものの、体温を奪われないのがせめてもの救いやった。


 屋根付きの建物がある公園を見付けると、オレたちはその傍にバイクを付け、寝袋と銀マットだけを持って屋根の下へ潜った。

 セイコーマートで買った弁当などを食べながら、明日の予定について話していたが、この北海道の四日間、雨に打たれ打たれて打たれまくったオレたちは、北海道に辟易し、そろそろ本州に戻りたいという気持ちが強くなっていた。


 予定では函館のフェリーから青森へ向かうハズだったが、この調子で行けば三日は掛かりそうだったので、苫小牧のフェリーに乗って八戸へ向かうことにした。


 早速スマホでフェリーを明後日の朝で予約して、その日は眠った。


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