14 五日目の2 グッバイミラー

 摩周湖を出たあと、鉄朗のアイデアで無料の露天風呂に入ることにした。

 からまつの湯、という川沿いにある露天風呂で、誰もが無料で入れるらしい。


 途中農場を横切りながら、農場独特の臭いに「獣の臭いや!」と喚きながら牛の横を通り過ぎ、からまつの湯に近づく。


 午後4時に風呂の近くまでやって来ると、露天風呂があるところまで公道は続いておらず、最後の道は砂利になっとった。


「やっぱええか」


 突然、鉄朗が言う。


「え? ここまで来たやん」

「もうええんちゃう?」

「何やねんそれ。もうすぐそこやんけ」


 オレがそう言うと、鉄朗は渋々アクセルを回した。

 それで砂利道に入ると、


「ぐぅあああああ!」


 オレは砂利にタイヤを取られて豪快にスリップした。その勢いたるや凄まじいもので、左右についていたバックミラーの一つが根元から折れるほど。


「だから言ったやん。砂利滑るでって」

「言うてへんわ!! 言うてへん! 一回も! 言うてへん!」

「へへへへへ」

「なにワロとんねん!」


 倒れたバイクを起こしながら怒る。折れたミラーを「やっちまった」と言いながら拾い、他に損傷が無いか調べる。一度エンジンを切って、それから再点火してみると、キックが詰まるような感じがした。


「まあ、動かん訳ちゃうしな……」

「そんなことで壊れへんって」

「そうやとええけどなぁ」


 自分もいくらか切り傷があったが、それ以上にバイクを心配しながら、風呂まではバイクを押して行った。


 露天風呂を短く切り上げ、今回の宿泊地である桜ヶ丘森林公園オートキャンプ場へ向かう。その途中で「ぽっぽ亭」という定食屋で頼んだ豚丼が美味かったのが、せめてもの救いだった。


 今日は午後七時ごろにキャンプ場に来て、早めにテントを立てて眠ることにした。


「今日は散々やったわ……。北海道来てから毎日やけど」

「儂はけっこうええ日やったけどな。雨もそない降らんかったし」

「そらアンタはええやろな」

「そんな怒んな――」


 突然、横になっていた鉄朗が飛び起きて、テントの隅を見た。


「何かに触られた」と小声で言う鉄朗。

「熊か……!」


 二人の心拍数が一気に跳ね上がる。

 しばらくテントの隅を見ていると、外側からテントを押された。

 だが、ずいぶん小さな動きやった。


 鉄朗と顔を見合わせ、ゆっくりテントを出てみると、そこにただのキツネが居た。


「くぅああビックリした。森に帰れ!」


 鉄朗が両手を上下に広げて威嚇すると、キツネは全速力で疾走して逃げて行った。 色々と心臓に悪い一日やった。 

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