10 三日目の2 ホクレンフラッグフラグ

 道の駅を出てすぐのガソリンスタンドで、北海道は夏の間だけ、バイクで給油をすると貰える小さな旗があると知った。その名もホクレンフラッグ。

 赤、黄、緑、青の四種類があり、地域によって貰える色が違い、また年によって絵柄が違ったりする。この年の旗はヒグマ、キタキツネ、エゾジカ、オジロワシが描かれたワイルドフラッグやった。

 ここでヒグマの赤い旗を手に入れたオレたちは、バイクの後方にそれを差し、今日の目的地を目指した。


 昨夜の黒い海のような景色と打って変わり、北海道の広大な風景がオレたちの心を捕える。電線やビルに分断されていない空。まっすぐに続く道路。

 しばらく走っていると、レトロな電車が横に見えた。後々調べると、富良野線というらしい。同じ地平に並び、追いかけるようにバイクを走らせていると、初めて来た場所なのに懐かしさを覚えた。


 17時ごろ、オレたちは「かんのファーム」というラベンダー畑に着いた。

 その傍でやっていた小さな店でじゃがバターが販売されており、北海道っちゅうたらジャガイモか、という安直な発想で一つ頼むことにした。


「……ごっつ味濃いなこれ」と鉄朗が驚いた。オレも一口食べて、

「ほんまや。美味い。どないなっとんねんこれ」

「おい、ひょっとしてこれ売ったら儲かるんちゃうか?」

「もう売りもんやっちゅうねん。金払ったやろ」

「えぇ~? マジでぇ?」


 しょうもないことを言いながらじゃがバターを食べ終えて、道の駅とうまを目指して再び走り出す。ところが、またしても昨日と同じく雨が降り出した。

 しかたなくバイクを駐め、カッパに着替え、荷物に防水処置をして走り出す。

 雨のバイク走行は露骨にテンションが下がった。

 しかし、一時間すると雨が止み、と思えばまた降り出し、それを二回繰り返したところで着替えるのもアホくさくなって、その日は終始カッパで走ることにした。


 それから三時間後に道の駅に着いた。だが、その道の駅に眠れそうな場所が無く、別の道の駅に行くしかないとなって、夜中九時から更に走り出し、ひたすらエンジンを回すことまた三時間。120km先の「おんね湯」という場所についた。

 時刻は深夜零時を回っていて、二人の体力は既に限界やったが、その休憩室で無料のキャンプ場を検索し、また走り出し、一時間後にキャンプ場に到着した。


 へとへとになりながら、テントを張ってカレーを作り、横になったのが二時。


「今日は死ぬかと思ったわ」とオレが言うと、

「ほんまやなぁ。あ、そうや。北海道のキャンプ場ってさあ、熊出るらしいで」

「……は?」

「おやすみぃー」


 何で今このタイミングでそれを言うんやってことと、昼のガソスタで手に入れたヒグマのホクレンフラッグは、まさしくフラグやないのか、という奇妙な考えに取り憑かれた。


 熊って夜行性なんか? 夜行性やったら、オレたちヤバいんちゃうんか。


 寝息を立てる鉄朗の横でスマホを取り出し、「熊、夜行性」で調べた。

 幸いなことに夜行性ではなかった。

 それでも、死ぬかも知れん、と思い、スマホのメモに「遺言」というタイトルで、「死因:鉄朗のフラグ発言」と書いた。


 次の日起きてから、

 いや、あれは遺言じゃなくて死に方やんけ。と自分にツッコんだ。

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