9 三日目の1 ご馳走、罰ゲーム

 昨晩はろくに眠れなかった。

 雨もあって野生動物に対する危機感はなかっけど、もうとにかく寒い。

 持ってきた服を寝袋の隙間に詰めに詰めて、どうにか数時間眠った。


 目が覚めてから、小型のバーナーと鍋、飯盒を使い、フェリー搭乗前に買って積み込んでいた米を炊いてインスタントカレーを作った。

 朝六時の道の駅は静かで、人通りも少ない。


 しかし次の道順を鉄朗と話し合っていると、道の駅の傍にある宿泊施設に泊まっている関西出身のおっちゃんがやってきて、旅か、と聞いた。


 オレはあんまり知らん人とはよう喋らん質やったが、鉄朗は誰が相手と気にせずに、旅です、と答えた。


 僕も昔やったなぁ、とおっちゃんが言い、鉄朗と話に花が咲き始めた後ろで、オレは次の到着地を「道の駅とうま」に決めた。その行程は115km。昨夜の60kmの道に三時間掛かったことから、だいたい五時間程度と見積もってそこに決めた。


「野武彦」


 鉄朗に呼びかけられて振り返ると、その腕にメロン一玉が抱えられていた。


「何それ」

「さっきのおっちゃんに貰った」

「メロン? わらしべ長者イベント始まったな」

「わらと交換した訳ちゃうけどな」

「ええがな。そいで、次の道決まったで。だいたい100キロ先」

「分かった。でもおっちゃんが泊まっている宿、温泉もあるから、先風呂行こや」

「了解」


 温泉宿の前までバイクを運び、宿泊施設に入ってみると、温泉がまだ開いてないということが分かって、どうしたものかと宿のロビーでうろうろしていると、さっきのおっちゃんがやって来て「こっちにこい」と言う。


「なんですか」と鉄朗が聞いた。

「ここの朝食のバイキング食べて行きや。さっきフロントに君らにも食べさせてやってくれって頼んだから」


 ええんですか、と鉄朗が愛想良く答えた。

 お前さっきカレー食ったやんけ、とオレは目で訴えたが、断られへんやろ、と目で訴え返される。


 コーンポタージュに、サラダ、ウィンナー、ごはん。

 美味い。美味いのに、胃がつらい。

 ありがたいけど何の罰ゲームやねんと思った。


 どうにか食い終えて、ありがとうございます、と二人で礼をして宿を去った。

 風呂のことはすっかり忘れていた。

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