第三話 み、皆さん! 空から、アラサーが!
初夏の爽やかで暖かな風が、亜麻色の長い髪を遊ぶように揺らす。枝葉の間から零れる日差しも、ぽかぽか暖かくて気持ちが良い! ユアは両手に持った籠を一旦地面に置くと、空に向かって大きく伸びをした。
「んー、本当に気持ち良いです。今日は何だか良いことがありそうですね!」
今日は外に出て正解だった。柔らかな土を踏み、鳥の囀りを聞き、緑の空気をいっぱいに吸い込む。街から少しだけ離れただけなのに、こんなに静かで気持ちの良い森があるのだから自分はなんて恵まれているのだろう。
「ユアー、こっちの魔物退治も終わったから、おれ達も薬草採り手伝うぞー」
「あ、はーい。よろしくお願いしまーす!」
「にゃはははは! ユアの為に、シナモン達がこの森の薬草を根こそぎ採り尽くしてやるにゃ!」
少し離れた先から手を振る二人に見えるよう、大きく手を振り返して。そうだった、今日はピクニックではなく仕事の為に来ていたのだった。付いてきてくれた彼らにばかり任せるわけにはいかない。
ワンピースの裾が地面に擦れないよう気をつけつつ。再びその場にしゃがみ込むと、周囲に生えている草花を品定めして、虫に食われていない薬草を摘み取り籠の中へと入れた。鼻歌を歌いながら採取作業を続ければ、あっという間に籠が満杯になってしまった。
これでしばらく困らないかな。ついでに夕食で使えそうな木の実や花は無いかと、ユアが辺りを見回した。
その時だった。
――あああああ!! 死ぬうぅー! また死ぬー! また色々なあれこれが飛び散っちゃうぅうー!!――
「えっ、え?」
突然の悲鳴と、何かがぶつかるような音に思わず立ち上がるユア。何、今の。魔物の悲鳴? いや、それにしては人語っぽかったけど。
籠を両手で抱えたまま、恐る恐る音がした方へと歩を進める。ぱきん、と妙な音が足元から聞こえた。
何! ウサギのように飛び跳ねて、地面を見る。
「きゃっ! ……あ、ただの枯れ枝でした」
踏んだ枝が折れただけだった。ほっ、と安堵に息を吐いて、いくらか肩から力を抜いて再び前を向いた。
その瞬間、
「…………ふへ?」
初めて知った。人間は驚き過ぎると、とてつもなく間抜けな声が出るのだと。想像もしていなかった光景に首を傾げながら、ユアはトコトコとそちらへ歩み寄った。
そして、しゃがむ。
「あのー……お昼寝中、ですか?」
背の低い草花が生い茂るそこに、仰向けで横たわるちょっと不思議な格好の男性。つんつん、と肩を突っついてみるもぴくりともしない。
ちょっと失礼して目蓋をこじ開ける。それから頸動脈を触って、手の甲を強めにつねる。死んではいないけど、反応も無し。お昼寝中というには、顔が悲惨過ぎる。
そうこうしている内に、やっと感情が理解に追い付いてきて。
「……きゃ、きゃああああぁあ!!」
「ゆ、ユアどうした! 魔物か!?」
「敵襲! 敵襲かにゃ!?」
「はなは、ハルトさん、シナモンさん! 助けてください、人が……人が倒れてますー!!」
悲鳴が聞こえたのだろう。大慌てで駆け寄ってきた二人に、ユアは先程よりも大きく両手を振って助けを求めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます