カイム・エストハイム
「馬鹿!なんで出て来た!」
スティンガーは大声でロロナの行動を咎める。
だがロロナはその叱咤を気にもとめない。
「もう誰も死なせやしない!そのための神器よ!」
クサリクに向けて、グングニルを構える。
「おい兵士ども、あの娘から槍を奪ってこい」
クサリクの命令に兵士達は止むを得ずと言った様子でロロナに向かっていく。
「貴方達は魔獣の言いなりでいいの?」
兵士達にロロナは問いかける。
ロロナはそんな迷いの中剣を振るう兵士達をグングニルで薙ぎ払っていく。
致命傷は与えず、可能な限り兵士達を生かそうとしているのだ。
「役立たずどもめ」
クサリクは悪態をつき、エクスカリバーを構える。
クサリクの頭のツノが光出す。
注視すると帯電しているようにも見える。
次の瞬間、ロロナから数十メートル離れた距離にクサリクがロロナの目の前に現れた。
まるで瞬間移動したかの速さにロロナは咄嗟にガードする構えをとる。
しかし、クサリクの繰り出す剣戟を受けきれず、グングニルが弾き飛ばされる。
それもそうだろう。
魔獣の筋力は人間の筋力とは比にならない強靭だ。
「終わりだ小娘!」
「あっ」
ロロナは死を悟った。
クサリクが振り下ろす剣の動きがスローモーションに見えている。
色々な思いが思い浮かぶその途中。
鋭い閃光がロロナとクサリクの間に降り注いだ。
「ぬおっ!?」
「きゃあ!!」
ロロナとクサリクはその衝撃によって吹き飛ばされる。
なんとか態勢を立て直したロロナは先程まで自分がいた場所を確認する。
そこには何事もなかったように突っ立っているカイムの後ろ姿が見て取れた。
「今なにが?」
ロロナは先程死を覚悟した。
なのに今こうして五体無事でいるのはあそこにいるカイムのおかげなのだろう。
しかし、何をどうして、助けてもらったのかが何も分からなかった。
「よおクサリク。雰囲気変わったっスね。イメチェンっスか?」
「何故だ......!何故貴様がここにいる!?いや、生きているのだカイム・エストハイム!?」
クサリクは非常に動揺している様子だ。
今までの威厳のようなものが消え去ってすら見える。
「生きてるって?別に今まで死んだことないっスよ俺?」
「あり得ん!10年前に我らの母が貴様達を殺したはずだ!」
「殺せてなかったってだけじゃないっスか。つか俺もいろいろと聞きたいことがあるんスよね。その我らが母さんのこととかあんたのその姿のこととか」
クサリクに話しかけながらカイムは腰に携えた刀に手を置く。
「その前に俺の剣返してもらうっスよ」
カイムは刀を抜刀し目に見えぬ斬撃がクサリクを襲う。
しかし、クサリクはエクスカリバーを盾代わりにする。
ガキンと甲高い金属音が響き渡る。
カイムはすぐさま距離を置いてロロナの前まで戻る。
「ほら」
「えっちょっ!」
カイムはクサリクに弾き飛ばされたグングニルを回収していて、それをロロナに投げつけたのだ。
「本当はもっと確実に倒せるタイミングで出て来たかったんスけど、あのままほっといたら危なさそうだったスからね」
そう言ってカイムはクサリクに視線を戻す。
「ロロナ。こっちは任せてくれていいっスからあっち任せた」
あっちとは一瞬なんのことかが分からなかったが、すぐにスティンガーたちのことだと把握した。まだ両腕を拘束されていて自由に身動きが取れないようだ。
ロロナはすぐさまそちらに向かって走り出した。
一方カイムとクサリクは互いににらみ合ったまま動かない。
「エクス!」
突然何かを呼ぶように叫び出すカイム。
それをクサリクは堪えるように笑った。
「馬鹿め!この神器は今は封印されている。たとえ適合者が呼びかけたところで目を覚まさんよ!」
「なるほど、だから魔獣ごときでも神器が使えるわけっスね」
カイムはロロナがグングニルを使えたことにも納得した様子だ。
そして、再び抜刀の構えを取るカイム。
「まあ先ずは取り返してから封印を解くとしましょうか」
そうしてクサリクに再び斬りかかった。
Caim-七英雄と紅蓮の王女 @Inao
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