12月29日
12月29日
目が覚めた時には掛けた覚えのない布団が僕の体にかかっていた。
体を起き上がらせて家の中を見渡してみたが父親の姿はすでに無かった。それどころか、母親の姿も見当たらない。
僕は急いで立ち上がり、辺りを見渡すと机の上に一枚の紙がおいてあった。初めて見る綺麗な字で『彰へ、少し出かけます』と書かれていた。
僕はこの時になって初めて母親の字を見たと思う。
メモを僕はそのままに、ため息を付くと荒れた家の片づけを始めた。
壊されたものもあって、それらはゴミに捨てることにした。
それが終わると、僕はそれから朝食を作り始めた。久々に過ごす一人だけでの時間。最初は煩わしいと思っていた母親の存在が、いまでは静かすぎる家にいることがとても落ち着かなく感じた。
朝食を食べ終えて、いつものように本を読もうとしても文字が頭の中に入ってこなかった。
読書は諦めてテレビを見ることにしたが、これも退屈だった。
これだけ一日が長く感じたのは初めての経験だった。母親を生き返らせてから今までの僕がしないような外出を頻繁にしていたせいか、何もしない日がとても長く感じたのかも知れない。
僕は夜になると服を着替えて外へと出た。
何か目的があるわけではなかったが、足は無意識にある場所へと向かっていた。
僕がたどり着いたのは昨日、母親と共に訪れた公園だった。
街頭がぽつんと立っているだけで人の姿は見当たらない。
僕は街の景色が一望できる場所へと立つと上空を見上げた。流れていく雲の隙間に数えきれないほどの星空が広がっている。
冬の星はオリオン座から始まりこいぬ座、おおいぬ座とある。それらの星座の他にも無数の星が夜の空に光り輝く。
もしかしたら、その中には誰も見たことがない星があるのかもしれない。
その思いが頭から離れずに、瞬く星空を見つめ続けた。
寒空の中を僕はじっと上空を見つめていた。家に帰る道中も空を見つめて雲が途切れる間に輝く星々を見た。
家について、真っ暗な部屋の電気を点けてみても母親の姿は無かった。僕は遅めの夕食を作ると食べて、残りの分をいつ帰ってくるか分からない母親の為に机の上に置いておいた。
冬休みの宿題をする気分にもなれずに静かに部屋の明かりを消した。布団からはみ出しそうなのを体を丸めて、暗闇の部屋の天井を見つめる。
静かな夜で、耳を澄ましても聞こえるのは冷蔵庫が熱を放つ音と自分の息をする呼吸音くらいだった。
僕は目を瞑る。
「見えない星を探すようになったのはいつからだろう」
母親を生き返らせて、僕は色々な所に連れていかれた。本当に自由な人で、どこか抜けていて、人を動かす魔法みたいな笑顔を浮かべる姿が頭の中に思い浮かんでいった。
一人でいるのがこれだけ静かなものだとは思いもしなかった。
いつまでも寝れずに、何度も寝返りを打ちながら、もう一度、あの夢を見たいと思った。
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