VS 命泉竜セレニテ (後編)
刻印の励起を竜種特効と竜種特防に絞り、残りを全て身体強化に回す。
身を深く沈め低姿勢から水竜へと飛び込む。途中に現れる水の使い魔を斬り伏せながらセレニテへと二度の斬撃。胴を裂く切り傷は両断に至る前に斬れたそばから癒えていく。
(流石の再生力…だが関係ねぇ)
これまで戦ってきたどの竜も桁違いの能力を持っていたが、それでも不死や万能は存在しなかった。ただ個々の特性がずば抜けて際立っていただけのこと。
この水竜とて同じ。異常な再生能力とて無限ではない。魔力・体力…何がしかの力が尽き果てるまで猛攻を続けて行けば、いずれ倒れる。
四肢を断ち、首を貫き、水の盾ごと全身を斬り刻む。
召喚され続ける水精も壁としての機能をほとんど果たせず霧散していった。振るう尾も水の攻撃も、何一つが掠りもしない。
だが。セレニテは負傷と再生を拮抗させながらも不敵に笑む。
「っ!!」
急激な虚脱感。自らが発揮した速度に引かれる形で夕陽が膝から崩れ水面を転がり滑る。
幾分かの力を奪い取り、体勢を立て直し切る前にセレニテが口腔に水球を溜め込みブレスの予備動作を完了させる。
『終わりです!!』
超高圧の水流が夕陽の胸部へ照準される。一度放たれれば回避する術はない。
刀を前面に構え突撃する人間の攻撃は間に合わない。刀ごと射貫かんと圧縮された水撃が放出された。
『……は…?』
致命の一手を撃ち出したセレニテが眼前で起きた結果に目を白黒させる。
目では負えぬほどの水竜のブレス。確実に狙ったはずのそれは、突撃途中の夕陽の右肩を貫いた。
おかしい。狙いがズレた。
さらなる異常はセレニテ自身に起きる。
(なん、ですか。この熱さは…っ!!)
内から焦がすような正体不明の熱に動揺を隠せず、ついに懐に到達を許した夕陽からの一閃で袈裟に斬られる。
瞬時に後退しつつも照準が緩んだ原因がこの熱にあると知る。
(熱い、熱い!内臓が焼かれる、心臓が、脳が、全身が内から燃えていく!)
抱える焦熱を鎮めようと自らの操る水で全身を包んでも熱は治まらない。感じるのは熱のみ。肉体が実際に炎上しているわけではないのが余計に混乱を招いた。
「…熱いのか。命泉竜」
静かな声音に反し呼吸すらおざなりにした全力の乱撃でセレニテに全力の再生を強制させている夕陽がそれの正体を告げる。
「俺の命を喰ったからだ。お前は俺の、燃える命を取り込んだ」
『な…に…?』
自身を炉心とし生命含む存在そのものを力として焼べている今の日向夕陽の命は炎と相違ない。
セレニテは彼の
「早く棄てた方がいい。
言いながらも猛攻は止めない。燃やせるものが残り少なくなってきている今の夕陽には手心も遠慮も頭から消え失せていた。
そしてセレニテも悟る。吸収した力を手放す、その一挙動が決定打になると。
それでも躊躇いは出来ない。竜としての尊厳も、ここまで生き抜いてきた経験も。その全てを灰塵として空虚な抜け殻になるなど、竜王の臣下としての意地が断じて否であると拒んでいた。
かくして命泉竜セレニテは日向夕陽から奪い取った生命力を体外に排出し、己が存在を死守した。
勝敗の分け目は覚悟の違い。初めから自己を顧みず自身を蔑ろにしてきた者との差。
全身の裂傷に加え今度こそ心臓を貫通した神刀に駄目押しの寸勁。内外問わず破壊された水竜の躰がぐらりと傾ぐ。
引き抜かれた刀の貫通創から血を流しながら倒れ伏したセレニテが巨竜の背から地上へ滑り落ちていくのを横目に、夕陽はゆっくりと前へ進む。
「……さ、さすがにやっつけた。よね…?」
肩の傷が徐々に癒えていく。針を刺して治癒を行っていたロマンティカがおそるおそる落ちて行った敵が残した出血の跡を眺めながら言う。
「さぁな。あの竜なら生き延びてそうではあるが」
「…もしかして、ユー」
妖精の知る彼とはもはやかけ離れてしまったが、その発言の真意を察して少年本来の温情がまだ微かに残っているのではと淡い期待を抱く。
だが夕陽はそれをやんわりと否定した。
「殺す気でやったよ。それで生きてたんなら、それは俺の過失であいつの性能勝ちってだけだ」
そこで夕陽がぴたりと足を止める。そこは巨竜テラストギアラの背面中心部にあたる箇所。
再び全身の刻印が光り輝き刀を握る力へと変わる。
「頼むぞ竜共。コイツをどうにかしなきゃなんねぇんだ」
味方であった竜種達が動き出さないことに夕陽は焦燥を心中で再現する。早くしなければ。これ以上の被害は避けねばならない。
命泉竜の代わりに背部へ現れた無数の牙竜を見回しながら、夕陽は祖竜撃滅の一矢が来るその時までをひたすらに耐え、待つ。
『メモ(information)』
・『命泉竜セレニテ』撃破。地表へ墜落。
・『日向夕陽』、歯兵竜牙と交戦開始。存在燃焼七割超。
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