最終幕・人竜生存再臨決戦
セントラルに集っていた『黒抗兵軍』の全軍団員、及び戦闘能力を保有する者達が死した大地、エリア9へと転移した瞬間。
全ての者達が同時に散開した。
「後衛職を取り纏めろ!陣を敷いて結界と強化の準備、次いで空への迎撃に魔力を回せ!!」
「いや!まずは各自この隕石の雨からなんとしても逃げ延びろ!もはやこの場で護るべきものは何も無い!存分に逃げ回れっ」
「牙の竜も来るぞ!竜種特効を持つ者は前に出て気張れ!」
「あのデカブツを墜とさないことにはどうしようもない!火力特化型の戦力を死なせるな!俺らで盾になる!!」
つい先刻までとは状況がまるで異なる。フロンティア世界最大都市であるセントラルを防衛しなければならなかった状況から一転、彼らは枯れ果てた土地でその機動力を十全に活かして動き回る。
ある者は回避に専念しながらも指揮を執り一団を束ね、ある者は結界術を活用しながら纏まり始めた軍勢への隕石落下を未然に防ぐ。
そしてある者達は、身を粉にしながら迫る敵への対応に力を割いていた。
「早くこちらへ!結界内で出来得る限りの回復を行います!」
人の陣営の中で地下に潜っていた者達―――竜都復活を阻止したアル達はダメージも疲労も回復させる間もなく竜王陣営の襲撃に対処しここへ転移していた。
兵軍の者に誘導されるがまま複数の魔術師達から回復の術を受けようとする中、立ち止まったアルが浅い呼吸をしながら空を見上げる。
「チッ、好き勝手しやがる。ヴェリテ!」
「貴方の負けず嫌いも相当ですね。承りました」
兵軍の人間が何をと問う前に、強く踏み叩いた地面が大きく隆起してアルごと持ち上げていく。
その黒鉄、二条の砲塔は、かの神造巨人との戦いに参加していた者ならば覚えがあっただろう。百機もの人型駆動兵器が全機装備していた科学兵器。特効無き純粋なる威力のみで竜種を砕く電磁気力の射出機構。
近代文明の模倣をこなすアルと、規格外の電力供給を可能とするヴェリテの組み合わせあってこそ実現可能な一撃が空の巨体へと向けられる。
「〝
天空へ伸びる一射。
電磁の力を帯びた金属塊は燃ゆる隕鉄を打ち砕き、吹き荒ぶソニックブームは牙竜の五体を捥ぎ取る。一際強固に拵えた砲弾は蒸発しきるより前に巨竜へと到達し、衝突。
消滅した。
「…あァ!?」
「気が済んだのなら下がりますよアル。彼らが隕石雨を凌いでくれている間に、少しでも傷の手当と体力の回復を」
眉を跳ね上げて着弾地点を睨み上げたアルの襟首を引っ掴んで、ヴェリテは早々に空から視線を戻していた。
まるで分かり切っていたことのように平然とするヴェリテにアルが引き摺られたまま食って掛かる。
「オイ待て!なんだありゃ効いてねェぞ!」
「それはそうでしょう。真なる祖竜であれば竜王と同様、近代の武器・武装は効果を成しません。おそらくダモクレス級の砲撃であっても同じことかと」
「それも聞いてねェ!」
「それにそもそも、届いてませんよ」
意味深な発言に暴れさせていた手足をぴたりと止め、アルが頭だけを持ち上げて自身を引く雷竜を見上げる。
「そういや言ってたな。『喰う』んだったか」
「ええ。アレにとってはブレスだろうとビームだろうと御馳走です。喰らい、理解し、適応する。だから尚のこと原始的な攻撃でなければならない」
暴食の祖竜。ブレイズノアに並ぶ竜王陣営の脅威。
どうにかしないことには本命へ矛を届かせることすら叶うまい。
「もうじきセントラル外にいた他の戦力・陣営もこの地に合流します!それまではどうか前に出るのはお控えください」
座らされ回復魔術を受けながら、男のひとりが言うのを聞き流すアルが周囲を見回した。
「つっても。……おいシュライティアのクソが抜け駆けしてるじゃねェかざっけんな俺も出るぞ!!」
「ちょ、おやめください傷が深いその状態では…っ!」
「待て待てアルお前まだ復帰できる体じゃねーだろがよ」
空を飛翔する翠の姿を目視したアルが激昂しながら立ち上がるも、すぐさまエレミアやディアンに取り押さえられる。
実際のところシュライティアとてもちろん万全ではない。今すぐ手当を受けねばならない状態で無理を押して地上の結界組・医療班の場所を隕石や牙竜から防衛している最中であった。
どちらにせよアルにしてみれば『抜け駆け』以外のなにものにも映らなかったが。
「あれ?っていうかユーヒは?こっち転移してきてから見てないんだけど」
尋常ではない回復速度で傷を癒していく真銀竜エヴレナがふと少年の不在を口にする。アルと同じく目を離せば途端に無茶をしでかすと見て釘を刺しておこうと思っていたヴェリテも同様の疑問を持っていた。
「…転移に含まれなかった?まさか日和が…」
「関係ねェよ」
彼に起きた心身の異常を地下で感じ取っていたヴェリテが懸念を思い出すも、それをアルの言葉がバッサリと斬り捨てる。
「野郎はどうせ来る。転移からハブられようと走ってここまで来る。そういうヤツだっただろ今までも」
自分とは無関係の世界、無関係の戦争。であっても精魂尽き果てるまで、いや尽き果ててもなお自分ではない何かの為に戦い続けてきた少年であることは誰しもが周知のこと。
それを思い返し、皆々も黙って頷いた。
「そう、ですね。そうでした」
「だろうが。なら俺らのやることは別に変わりねェ」
爛々と闘志を燃やす瞳で、戦闘狂の妖魔は再度空の巨影を見上げる。
「
人と竜。生存権を賭けた存亡の分水嶺。
竜種の復権か、人類の存続か。
フロンティア世界の命運を別つ最終決戦が死に絶えた大地にて開幕した。
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