VS ヒロイック&デッドロック (前編)
開幕。初手を切ったのはヒロイック。
残り少ない魔力を出し惜しみせず鎖とリボンが幾重にも束なって二人へと降り注ぐ。
「アル、デッドロックをやれ」
言って、前に出た夕陽の周囲から無数の火球が出現する。昇華させた刻印術の強化によって練度の低い彼の五行術も少なからず威力や精度といった面が向上していた。
「応よ!」
突き出す手に呼応して火球が全て射出され鎖を砕きリボンを焼き払う。刀を肩に担ぎ前傾姿勢で飛び出したアルへは拘束のひとつとして届かせはしない。
「なんだ、あたしとタイマン張ろうってかー!?」
「いいや?」
槍を構えて迎え撃つ姿勢のデッドロックに、刀を振るう直前のアルが歯を剥いて邪悪に笑う。
「悪いがそんな悠長なことしてられない」
土煙を巻き上げて、デッドロックの背後へと回り込んだ夕陽の一刀がアルと同時に重なる。
(速っ…!)
近接戦ならば右に出る者のいない実力者であるデッドロックも、彼から目を離すことはしなかったヒロイックでさえも瞬間姿を見失うほどの爆速。刻印のブーストに加え火行で生み出した爆裂を推進力に足した自傷を伴う高速機動。
「な…めんなっ!!」
そんな最大級の急襲とも呼べるべき挟撃を、精密に振るわれた燃える槍が曲芸じみた動きで弾き落とす。舌打ちをするアルが刀の真名を唱えるより前にデッドロックの手に回る槍が背後の夕陽を狙う。毎分毎秒毎に異質な速度で強さを獲得するこの少年が最大の懸念事項と判断してのものだった。
回避する挙動も見せない夕陽に違和感を感じ取ったデッドロックが、次には眉間の数ミリ手前で槍の穂先を止めることになる。
「〝
彼が、そんな言葉を呟いたから。
(馬ッ鹿な!?)
まさしく莫迦な。正しく異常者に対する驚愕の表れである。
マギア・ドラゴンですらも消し飛ばした竜王の破壊術。使われた時点で絶命を約束されたようなものですらあるそれを、おいそれと使うはずがないのはわかっていた。なにより次それを使えば彼自身もどうなるかわからない。
でも、それでもと。二人の少女は万が一を捨てきれなかった。
短い間の共闘関係でも嫌というほど知れた、この少年の異常性から鑑みて。
躊躇いなく使うという可能性が十分にあったから。
「〝
結果として放たれることはなかった絶望の破壊。だがそのハッタリにまんまと乗せられた両名の空隙は大きい。最速で刀を鞘に納めた夕陽と、刀から極大の雷撃を発生させたアルとが今度こそ渾身を見舞う。
「〝
「〝
斬撃二閃。纏う焔よりも朱き鮮血が宙を彩る。
「デッドロック!!」
叫ぶ金髪少女が鎖を伸ばすも、二人掛かりの斬断には敵わずあっという間に距離を詰められる。
「仕留めるぞ」
「言われずとも!」
卓越した動きと剣術で迫る束縛の魔法を全て斬り捨て、仕掛けるタイミングを見計らう。
共に見えた拘束の穴。突破し、斬殺するまでの道筋を見出し足腰に疾走の力を溜める。
「あ……あ゛ー」
爪先へ込めた疾駆の一歩が、背後から聞こえた声と音に阻まれた。
劫火。次いで暴風。夕陽とアルの身体が一秒で滅多打ちにされる。
(手応えあった、はずだが)
(まだ動けるか、怪物)
棒術、あるいは槍術によって頭が割れ、皮膚が裂け、何処かの骨まで砕ける音を鼓膜で捉えながらも、二人の対処は最短で最善を叩き出す。
生み出す双剣と、神刀に鞘を加えた二刀流。都合四つの迎撃態勢が乱舞するデッドロックの槍捌きを押さえ込む。
加えてヒロイックの援護が入り混じる。無数のリボンの先に括りつけられた無数の分銅が大きな撓りをもって降り落とされる。
曰く振るわれる鞭の先端は音速を超えるのだという。それを魔力と魔法で再現し、さらにはその先に百g程度とはいえ重りを付けていたのなら、出力される最大威力は如何なるものか。
音速に到達する分銅の雨が槍の乱撃と並行した縦横無尽の滅殺空間を作り出す。
対し、夕陽とアルのやることは何も変わらない。
火球、岩砲、水刃、樹壁、金針。五行の持てる限りを尽くして。あるいは刀剣の鍛造と破壊を繰り返して、その全てに対応していく。
やがて息が続かなくなったか、魔力が底を尽きかけたかして猛攻が鳴りを潜める。他より地盤が低くなったその一帯に充満していた土埃がにわかに薄らいでいき、その中央に立つふたつの人影にデッドロックが滝のような汗を流しながらこれみよがしな舌打ちをする。
「化け物、め」
「
飄々とした声色とは裏腹に、煙の晴れた先に立つ妖魔と人間は満身創痍だった。
二人分の血溜まりが広がる只中で真っ赤に染まりぜいぜいと荒く息を吐く二名ではあるが、未だ存命に相違なく。渾身を凌がれたことにヒロイックとデッドロックは苛立ち以上に戦慄を覚えた。
「夕陽、まだやれんだろ」
「聞くな。選択肢はどうせ、無い」
全力で酸素を吸い込み鼓動を落ち着かせながらも、夕陽の顔には焦りも怯えも無かった。―――いや。
(もう無ェのか、お前には…)
近い位置でその有様を見届けていたアルにこそわかる変化、変調。それを悟りながらも口にはせず。
四者四様同じく等しく、限界を迎え限界を超えた最後の応酬が再開された。
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