白雷、此処に
意識の同調、ではないかとヴェリテは推測していた。
祖への変転、起源への到達。雷竜は身近に二体の始祖返りを起こした同胞を目の当たりにしていながら、未だその条件を探りあぐねていた。
無論並大抵のことで起こせる奇跡ではない。極めて限られた状況下でのみそれは発現するものと理解はしていた。
そしてヴェリテは思い至った。秩序に邁進し銀天は成り、流動に身を委ねることで翠風は目覚めた。
おそらくはそれぞれの竜種族の祖に当たる属性に意識を重ねることが最後の条件。エヴレナによる外的要因で強引に抉じ開けた覚醒の扉を開く最後の鍵。
だからこそエヴレナとシュライティアは祖竜の一端を手にし。
だからこそヴェリテは絶対にそこへ至れなかった。
(かつていた何者かに合わせ、何者かの力に全てを託す。……は)
なんと、莫迦らしいことか。
祖を下に見ているわけではない。起源を軽んじているわけではない。
他の誰かであればそれを十全に使うことに異論は唱えまい。だが、だが雷竜はそれに強い忌避感を覚えていた。
こと、武に優れ己が強さのみで君臨を続けてきた雷の一族であったからこそ。
誇りと誉れが始祖の力を嫌う。
矜持を以てして敗けるのであれば本望。地力のみで駆け抜ける戦場こそが本懐。
だから要らない。
(けれど、負けない)
意地でもここは譲らない。自分を含む全ての者が命懸けで挑む戦い。敗北などは許されないし、なにより自分が許さない。
古き闇が何するものぞ。
(新たな時代は、世紀は、真銀が拓く)
砕け散った金の
霞む視界の先ではシュライティアが必死の形相で後方のエヴレナを守りながらドラクロアと交戦している。だが長くは続かない、あと数十秒で闇は風を穿つだろう。
終わったはずのものが新たなる芽を潰そうとしていることに大きな憤りを覚えた。自然と、壊れたはずの躯体に力が入る。
(ええ…そうでしょうとも。ここから先は、私達の未来です)
決して断じて、混沌が再び跋扈していい世界ではないのだから。
命を燃やす雄叫びと共に竜の身体を起き上がらせる。
全てを賭して挑まんと気勢を上げた雷竜の体躯が何故だか少し、軽くなったように感じ。
(……)
そうして、そっと背中を押されたような気がした。
ーーーーー
(不味い、なッ!!)
自前の旋風と祖の力を借りた攻撃の
後方で強化支援に徹しているエヴレナもそれがわかっているからか悔し気に歯噛みしながらも前に出ようとはしていない。
しかしどの道ジリ貧。間近に迫る暗黒に身を潰されるビジョンが脳裏によぎる。
大波のような闇が高く竜化シュライティアを超えるほど昇り大質量をもって襲い来る。
全ては防げない。
最早この場での勝利は絶望的と見て、せめてエヴレナだけでも逃がさんと風の突破口を作り出そうとした時。
『…フン』
勝利の一手を繰り出す寸前だったドラクロアが攻撃の手を引く。何をと考えるより前に、ドラクロアとシュライティアの間を鋭い斬撃のような光が割り込む。
さらに闇の天蓋を打ち抜いて降る無数の光弾を破滅のブレスで一掃しながら、ドラクロアは背後を照らす眩き光に目を細める。
『そうか。貴様も、また』
『はい。貸してやる、と。そう言われた気分です』
金の光沢は無く、その翼はただひとつの穢れすら弾く真白。開天の空に座す太陽のような輝き。
光の加減によって、その頭頂部には王冠のような光輪のようなものが見え隠れしている。
『あれほど厭っていたはずなのですが。どうやらそれこそが到達条件だったようですね……』
心底からうんざりしたように呟くヴェリテ。
星の気象気候の遍く全てを操り司ったとされる『
気まぐれに晴れては荒れる天空の化身にそもそも同調すべき意思などありはせず、『唯一つ己のみが絶対』という傲慢さと金剛石のような不砕の意識こそが天を御す者の資格。
光に見える白き全ては猛き雷。高圧縮され放電すら起こらなくなった
『貸してやるというのなら、使ってあげます。シュライティア、エヴレナ!無事ですか』
『無事ではないが…ああ、まだやれるとも』
「こっちも!寝てた分しっかり働いてよねヴェリテ!」
小娘が言うようになった、と小さく笑い、勢いを取り戻す闇の空間に点在する真銀の柱を支えるように白雷の大槍が幾本も突き立った。
戦場のアドバンデージはこれで互角。残すは太古に匹敵する力を積み上げた歴戦の古竜を降すのみ。
四体の祖が争う絶滅空間。神話を再現したかのような衝撃が暗黒の裡を強く震わせた。
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