死守するは旧態依然の忠義、挑むは日進月歩の信念


 古闇竜ドラクロア。竜王エッツェルへと古くから仕える竜種にして『三竜公』と呼ばれる強大なる王の腹心。

 そんなドラクロアをしてすらも、対峙する情念の竜の在り様は不可思議極まりないものだった。

 尾で打とうが、ブレスを直撃させようが、あの竜を模した怪物の様子は変わらない。楽し気に笑う不定の狂気は絶えず気分気儘に形を変えながらドラクロアの猛攻を受け続けている。

 まるで手応えを感じない。

(時間の無駄だ。…が、黙らせぬことには何れにせよ先は無い)

 この戦闘は(情念の竜種マギア・ドラゴンがどう捉えているかはわからないにせよ)防衛戦だ。ドラクロアは『浮上』の術式を起動させ続ける為に必要な玉座含む祭壇を護りながら敵を倒さなくてはならない。

 故に、このドラゴンの存在を無視して術式に専念することは出来ない。ただでさえ地上では何者かによる妨害によって術式起動が遅延されている。これはドラクロアにとっては不利を強いらされている戦況なのだ。

 それでも。再び竜の時代を取り戻さんとする主の命を拝受するドラクロアの士気は高い。

 この悲願大願を前にして、この程度の不利など些事にも及ばず。

(負けぬ、退かぬ。永き時を耐え忍んだ我らが祈り、願い!何人たりとて邪魔立てさせるものかよ…!)

 闇竜が持つ固有技でもある闇の空間。生存能力の高い生物でなければたちまちの内に死滅してしまうその領域の質をさらに上げる。もはや一呼吸ですら常人は生き長らえることはできない。

 高密度・高威力の一撃にて欠片も残さらず消し飛ばす。その算段を付けブレスの予備動作に入ったドラクロア。それを見てより楽しそうに高嗤う魔竜が真似事のように頭部を揺らめかせて頬を膨らませる。同様、ブレスの動作。

 互いの息吹が吐き出される間際。両者の視界を奪うように空から雷と暴風と銀霧が降り注いだ。

 この瞬間から第三勢力の介入が始まる。




『……そうか。貴様らが今代を生きる若き竜達か』

 石畳を砕いた粉塵の先を見やり、ドラクロアは言葉の通じる相手を前に先程よりもやや落ち着いた声色を取り戻す。

『同胞との争いに益は見出せぬ。叶えられる願いならば看過しよう』

「では―――三公竜が一角、古き闇のドラクロアへと申し入れる」

 やがて煙の先から三つの影が現れ、その中央に立つ人影が火花を散らしながら一歩前へと出た。次いで、続きの言葉を紡ぐ。


「竜都の眠り、醒まさせる愚行を改められたい」

『その願い、看過もされねば成就も叶わぬ。…許せ、我らは竜のみの栄華、竜種われらのみの世紀ときしか知らぬ故な』


 示し合わせたかのように、言葉だけの無為な交錯に期待を寄せる者は誰も居ない。

 ただ己が武器を手に、人化の竜が最古の闇へと相対する。

「…ならば、どうあってもこの場を譲る気は無いと」

『無駄な問答を繰り返すな』

「本当に?竜種じぶん達しか知らなくても、これからそれを知っていくことは」

『自身すらも欺けぬ希望を押し付けるものではない、小娘。貴様も同じ竜なれば、新旧問わず願いの叶え方などとうに心得ておろうが』

 続く二者への問いも同じくあしらい、ようやく互いに矛を抜く。


「最古の強者を前に不足無し。雷竜ヴェリテがその武勇を書き換えましょう」

 稲光と共に戦槌を握り、

「宵闇を超えて、風刃竜シュライティアがここに証明する。我が新風こそが古くを穿つ刃であると」

 双剣を旋風から生み出し、

「真銀竜エヴレナ…がっ!貴方達が知ろうとしなかったその未来さきへ至る為の架け橋になる!」

 銀の光が全ての味方へと強化の術で後押しする。


『時を惜しむは互いに同じ、言の葉で説き伏せようなど竜種の名折れに他なるまい。さぁ来い!我らがやり方で決着を付けよう!』


 強大なる竜の咆哮が地下全域へと響き渡る。

 過去の繁栄を再現せんとする古強者と、短い一歩でも確実に新たな道へと進まんとする新鋭達。

 ここに新旧を代表する竜種の衝突が開始される。




     ーーーーー


 味方の竜達が事前の打ち合わせ通りに術式を操作する三竜公へと挑みかかった時、残る戦力は戦闘を分断した片側の牽制へと回っていた。

 ただ。


「…ぐっ、ふぅ…っ」

「はっ…、は、ぁ…!」


 刻印術の使い手、敬虔なる信徒。

 どちらも相応の実力者に相違ない。だがそれにしても。


『きゃきゃきゃ!!うふふあっはははげらげらげらげら!!!』


 これは規格が違い過ぎた。情念の怪物…『ネガ』を知る二人ですら、これの違いは身をもって知ることになる。

 


「大体予想通りだ。元々なんの犠牲も無しに押し通せるプランだなんて思っちゃいなかったっての、こっちもなぁ!!」

「ディアン…っ」

 威勢よく吼える剣士が剣に刻まれた刻印の全てを発動させる中、彼の肩に乗るカナリアは彼の覚悟を察してか珍しく緊迫した声を漏らす。

「ええ。リア様の守るこの世界を好きにはさせません。ウィッシュちゃん、ごめんなさい。最後まで付き合ってください!」

『いいよお姉ちゃん!ちゃんと支えるから!!』

 背後で星光と共に能力の補助をしている概念体の少女も、エレミアの決意に応じて意気を返す。身体から放たれる光の勢いが双方の意識に応じてか倍増して輝いた。


 最古の竜と情念の竜。その両方を降そうとする世界の守護者達の決戦が幕を開ける。





     『メモ(インフォメーション)』


 ・『雷竜ヴェリテ』及び『風刃シュライティア』及び『真銀竜エヴレナ』、『古闇竜ドラクロア』と交戦開始。


 ・『剣士ディアン&リート』、『シスター・エレミア&〝成就〟の概念体』、『マギア・ドラゴン』と交戦開始。

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