セントラル最高戦力 (後編)
デッドロックが槍の達人…否、槍術の具現化とするならば、剣鬼ホノカは剣術の化身である。
その刃から見舞われる一閃は何らかの能力無しで見切ることは至難を極め、あまつさえ迎撃するなどそれこそ神業に等しい所業である。
そんなホノカの眼前に無造作に現れた分身二体。本体の挙動すら阻害する位置取りで転移を割り込ませたエレミアの差配には舌を巻くばかりである。
閃く惨殺の太刀。一度の振るいで発生する三つの斬撃は寸分違わずそれぞれのデッドロックへと指向された。
「…ほう」
ホノカの漏らす感嘆の吐息もむべなるかな。
必中の手応えに間違いなく。ただし散った鮮血は本体の肩を裂いただけの軽傷に留めたものだった。
分身体が即座にその身を呈して本体への致命傷に割って入っていた。過死傷を受けた分身体は揺らめく陽炎となって消えゆき、瞬きの暇を得たデッドロック本体が再び槍を握る。
「怪物め」
「貴女が言う?反英雄さん」
再び常人では負えない槍と刀の応酬が発生した。
ーーーーー
分身体を二人消し去ったことで余裕を得た夕陽はクラリッサが押さえ込みあぐねている黄色の少女、ヒロイックの攻略へと助力していた。
なんらかの魔法―――夕陽はこれを感覚的に以前共闘したあの少女らの扱うものと同じ異能である『
(リボン、鎖。象徴される概念としては束縛。捕まらなければなんとでもなるが!)
問題は捕まらないことを念頭に置いて動けばいつまで経っても術者へは到達できないということ。
回り廻り絶え間なく常に順転と反転を繰り返す織布と鉄鎖の猛威はおいそれと近づくことを許さない。
(こっちにはティカと幸がいる!五感共有した幸との二人掛かりで全周へ意識を向けたままティカの回復を常時続けていれば強行突破も…)
「我らが主なる大伸よ、この蛮行をお許しあれ!」
普段からの悪癖とも取れる遮二無二で無理矢理な突破口を見出した夕陽が動き出す一歩手前で、クラリッサの懺悔にも似た宣言が放たれる。
「もはや捨て置けません。そう、リア様が私にもっと砕けと囁いている!すぅ……そぉい!!」
握る鉄鎚を大きく振りかざし、そして乱暴に大聖堂の床へと叩きつける。
直後に奔る無数の亀裂から立ち昇る火焔。天からの罰と言われても納得してしまいそうな苛烈な爆炎が地の獄から噴き上がる。
「くぅっ!?」
さしもの反英雄ヒロイックもここまでの規模は予想外であったのか、肌を焦がす熱波に一瞬怯み、己への防衛用に回したせいで攻勢一方だった束縛の圏域に緩みが生じる。
(ほんとにシスターかこの人!?ええいまぁいいこのまま行く!!)
色々声に出して言いたい夕陽も、事態の深刻さと好機を最優先して火焔の間隙から一挙にヒロイックの懐まで跳び込む。
全身の刻印術を総動員させ、全ての強化を乗せた肉体が鞘に納めた神刀への最速最大の一撃を練り上げる。
「〝
渾身の一刀。しかしこれはヒロイックの四肢に巻かれた鎖によって威力を減殺されてしまう。
それでも強引に壁際まで吹き飛ばしたことで背中を強打したヒロイックが地面へと力なく座り込む。当然すぐに復帰するだろうがこの千載一遇を見逃すわけがない。
夕陽とクラリッサが示し合わせるわけでもなくに同時に追撃の一手を掛けた。
『…あは。あっハハは!!』
心底から面白がるような笑い声が響いたのはその時。
先の一撃で割れた地面の奥深くから、湧いて出るモザイクの一群。
それは夕陽とクラリッサ……だけでなく、ヒロイックへも無差別に強烈な攻撃を繰り出してきた。
「く!コイツら…『ナレハテ』か!?」
「それに何故彼女を!」
その疑問は夕陽にも当然あった。
クラリッサにはまだ知らされていなかったが、『ナレハテ』とは『ネガ』の成り損ない、類似種であるという報告はモンセーから受けている。
それが何故同胞にも近しいヒロイックを襲うのか。納得に足る要素が何も無い中での急襲に、動揺しているのはヒロイックも同じようだった。
「…おかしい、なんでこんな」
「ドラゴンだ」
戸惑うヒロイックの隙を補うように、ホノカとの連撃から距離を取ったデッドロックが立ちはだかる。
「あの気分屋が起きやがった。こーなると他の『ネガ』にもなにされっかわかんねーぞ」
「こんな…時に!」
攻撃モーションに移っている手近な『ナレハテ』を鎖や槍で消し飛ばしながら、苛立ちに表情を歪ませるヒロイックが指を鳴らし、デッドロックが槍を突き立てる。
「私は、ねぇ。私達は」
「あー知ってる。ネガを、…ネガの想いを守る英雄なんだろ?わかってる」
クラリッサの巻き起こした噴火を丸ごと呑み潰す衝撃が大聖堂を全壊させ、機先を制そうと同時に飛び出した夕陽達ごと瓦礫を粉微塵にしながら吹き飛ばした。
「……逃がしちゃいましたね」
キンと朱く濡れる刃を鞘に仕舞ったホノカの拍子抜けた声だけが、壁も天井も消え失せた大聖堂跡に空しく響いて空へと吸い込まれる。
数分後に通信端末からモンセーの連絡が来るまでの間、一同は矛を収めることなく次に向かうべき場所を特定していた。
誰ともなく、言う。
「地下だ」
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