始まる奪還戦
使役するは十数の獣。本来の人より大きなサイズは現在大幅に縮小され、鳥のタイプは肩に乗る程度、四足の獣種も大型犬ほどにサイズダウンしていた。
再構築した救世獣を引き連れ、大魔女カルマータが厳かな鉄扉を押し開ける。
その先、広い広い空間の最奥。玉座に腰を降ろす竜王の姿を真っ直ぐに見据える。
(……どうやら、一番乗りは私のようだ)
救世獣を用いた広域探査によってここまでエンカウント無しでの到達。加えて彼女はその不死性を万全に生かして数々の障害犇めく『胃袋』を立て続けに死にながら強行突破してきた。その甲斐あってか誰よりも速く目的の間へと辿り着く。
「ほう。ぬしが一番手か、魔女」
数段高い位置に据えられた玉座に黙して座るエッツェルとカルマータとの間に割り込むように、大剣を担いだ炎祖の厄竜が立ちはだかる。
「らしいね。では年寄り同士、やるとしようか。―――いや」
時間は限られている。その焦りを悟られぬように薄く笑みすら浮かべて、カルマータが片手をゆらりと持ち上げた。
瞬時に数々の術式を起動手前まで起こした鏡の魔女が、多くを語るより早く交戦の意思を示した直後のこと。
轟音が二つ。
ひとつはカルマータがやってきた大扉が備えられた壁を吹き飛ばして。もうひとつは高い天井を突き破って。
大小様々な瓦礫を押し流して現れた影は四つだった。
「…チッ。同着二位ってとこか?」
隕石のような威力と速度で玉座の間に大きなクレーターを生んだ者は、だくだくと血を流したままつまらなそうに片手を引き抜いた。陥没の中央には太い鉄の円柱を深々と腹部に埋めたまま瓦礫に手足を投げ出した破岩竜ラクエスの姿がある。吐血に喘ぎ激痛に顔を顰めている様子からして、凄惨な見た目に反してまだ息はあるらしい。
「急いだつもりではいましたが。想定より時間を取られてしまいましたね」
カルマータが立つ真横の地面を削ぎながら転がり続け、やがて速度を失いごろりとうつ伏せで停止した少年姿の竜。自身が叩きつけた拳打脚撃の数百倍返しを受けて戦闘不能に陥った閃光竜チェレンの負傷は、なまじ純粋な物理攻撃のみで打ちのめされただけあって見るに堪えないものであったが、これもまた命までは摘み取られていないようである。
「よく外から来れましたね、アル。一応ここ、祖竜の体内なのですが」
「あの
貶すように嘲笑うようにアルが指摘した通り、暴竜テラストギアラは現在その性能を二割程にまで落とされている。だからこそ可能だった少数での体内侵入であり、だからこそ通った表皮外殻を破壊しての強硬策でもあった。
二度は通らぬ手。故にここを逃すわけには断じていかない。
竜王は依然として座から離れず、その玉座に続く階段の最下には『破壊』の檻に囚われたまま意識不明のウィッシュがいた。さらに言えば、それらの前には厄竜ブレイズノアもいる。
三者、敵勢から離れた位置にて並んで小声を交わす。
「拘束をぶっ壊したらウィッシュ抱えて外に飛び出す。全員通信端末は持ってるよな?最悪バラバラに逃げっぞ」
「竜王と祖竜の足止めが必要です。私と、アル行けますね?カルマータはお得意の魔術でウィッシュの拘束具をどうにかしてください」
「簡単に言ってくれるねぇ…。とはいえやるしかないか」
各々が役割を決め、目線の合図で同時に飛び出した。
「オイ」
その第一歩目を、背後からの声が強引に止めた。
(しまっ)
もはや必要ないと判断し他の術式へ魔力を回す為に解除した探知の魔術。敵はこれだけだと根拠も無く断じてしまった己の無警戒さに嫌気が差す。
カルマータの肩が潰れるほどの握力でがっしり掴んだのは二メートルを超す巨漢。燃える真紅の瞳が状況を理解してゆったりと細められる。
「不貞寝かましてたらこれかよ。面白そうなことになんなら呼べっつっただろエッツェル?」
「〝
余裕を態度に表したまま竜王へと余所見を向けた男へ向け全力の蹴りを放ち、カルマータを掴む腕を真上に蹴り上げたアルが即座に地面から生み出した両刃剣を振り被る。
「
「おっと」
燃え盛る大炎の一撃にノーガードで呑み込まれた男から距離を取るカルマータとは対照的に、追撃の構えで前進するアルが叫ぶ。
「行け!コイツは俺がやる!」
「このオレ相手に炎の剣とは。…いくらなんでも舐めすぎだろ魔物の小僧ォ!」
妖魔と炎竜が相対し、カルマータは即座に思考を切り替え転進、本来の作戦通りに玉座へ―――正しくはウィッシュのもとへと駆ける。この時既にヴェリテは祖竜ブレイズノアと互いの武器を打ち合わせていた。
こうして流星の少女改め〝成就〟の概念体を取り戻さんとする精鋭達の戦争はセントラル直上巨竜体内にて勃発した。
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