VS 破岩竜ラクエス (前編)
「人間じゃないなオマエ!オーラが全然違う!」
「だったらなんだよ」
テラストギアラ背部ではけたたましい音を立てて二人の強者が戦闘を開始していた。
破岩竜ラクエス。竜王に心酔する上位竜種の一角。特に何も考えず「上から見下ろせばとりあえず敵いるだろ!」と意気込んで出たはいいものの、まるで見当違いな行動によって敵の主戦力とは邂逅ならず、ただし別の考えで動いていた妖魔アルとの接敵は叶った。
彼の気儘な気風からか今は気合の入った白い道着姿で、ラクエスは地面から大振りの大剣を生み出して敵を串刺しにせんとする。
それを跳び越えて、アルはテラストギアラ背部のあちらこちらに配備されていた外敵迎撃用の砲塔を破壊した残骸から刀剣を鍛造して肉薄する。
「なんで人間なんかに手ぇ貸すんだ!?弱くてちっぽけで、ひとりじゃ何もできないザコ共なんかに!」
「よく言うわ。そのちっぽけな雑魚共に負けて故郷を追い出された連中がよ!」
斬りかかったラクエスの眼前に迫り出した岩壁がアルの斬撃を防ぐ。ならばと跳躍で岩壁を跳び越え頭上からの攻撃を狙うも、そこには岩の砲弾を数発用意して射出態勢を整えたラクエスの笑みがあった。
誘われた。思い至ると同時に砲弾が炸裂する。
「まだ終わってねえ!竜王様が復活したんだ!あの人がいればこの世界はもっかい俺達の、エッツェル様のモンになる!!」
「させるかよ…!」
超人的な反応速度で身に触れる全ての砲弾を斬り払い、地面の大剣を引き抜いたラクエスと斬撃の応酬を繰り返す。
「ッ」
一合目にして、アルはその尋常ならざる膂力に勘付いた。
竜種はどれも例外なく凄まじいフィジカルを保有しているが、この竜はその中でも群を抜いて異常だ。まともな打ち合いでは間違いなく負ける。
「うぉっと!?」
だからやり方を変える。
力比べで勝ち目は無くとも、技術でならばこちらが上。というよりこの竜はパワーこそ驚異的だがテクニックに相当するものはほぼ持ち合わせていない。曲りなりにもいくつかの流派、剣技を叩き込まれたアルにこそ刀剣の斬り合いでは分があった。
だが相手とて馬鹿であっても無知ではない。お行儀の良い殺陣を繰り広げる気は無かった。
「あ?」
急激に重くなる右足。見れば足元の地からは岩の腕が生えてアルの足首を掴んでいた。反射的にこれを断つべく振るった刀は、何故か足元ではなく敵たるラクエスの方へと吸い寄せられる。
(引りょ)
正体の看破も間に合わず、狙い放ったわけでもない半端な一刀はあえなく弾き上げられ頬を打ち抜く右拳がアルの脳を激しく揺らした。真横に吹き飛び転がるアルへと容赦なく向けられる追撃。景色を歪ませる重力のブレスが妖魔の姿を吞み込んだ。
「おっけ!次だ次ぃ!!」
ブレスを放った大口を閉じて快勝を確信したラクエスが背を向け、そこでぴたりと止まる。
「……なんて、言うわけないだろ!確かに俺は馬鹿だけどそこまで馬鹿じゃない!」
今度は勢いよく振り返って怒鳴り声を上げる。情緒豊かな竜だった。
「チッ。黙って死んだフリしてりゃこのデカブツん中に戻る道に入ると思ってたのによォ」
戦を好み愉しむ妖魔の本性を押し殺してまで採った手も通じず、苛立ち紛れにアルはむくりと起き上がる。
スリッピングアウェーの要領で直撃を避けて受けたものの、怪力竜の拳はそれなりに効いた。ブレスもまた同様にアルの身体を痛めつけている。
それでも止まらない。やはり痛み程度では妖魔は進むことを止めない。
「竜の世界は二度と戻らねェよ。人と手を取り合うことをしなかった古びた時代のポンコツ共に、この世界は渡らねェ」
言うその合間に新たな剣が手の内で精錬されていく。今度はじっくりと力を込めて、竜に挑む為の刃を練る。
「共存の時代なんだよ、カビ臭ェ旧態竜が。ガチでやんのは最後まで取っとこうと思ってたが、やめた」
柄を握り一振り。ラクエスはその剣が己に傷を生むであろう脅威を秘めたものであると直観で悟った。
話には聞いていた。竜殺しの武装をいくつも保有し自在に扱う剣士。既に何体もの竜種がその刃で沈んできていることを知っている。
「オマエ。……鍛冶師アルかっ!!」
「『さん』を付けろよデコ助野郎」
ラクエスがここで初めて構えを取った。自らの能力をいつでも発動できるように万全に力を回していく。
話の通りであるのなら、やはりこれは人ではない。竜を殺せるものが人であってなるものか。
ここにきてもまだ、ラクエスは人間というものの弱さを信じて疑わなかった。ここまでに人に討たれた竜もいるという事実を知っていながら。
それが慢心なのか、あるいは信仰にも似た竜という種族に縋る誇りだったのか。
ラクエスは吼える。未だ人化に留めたままで、殺意を放出した。
「テメェの強さに胡坐をかいたツケが来たぞ、淘汰の時だ」
「
本気となった妖魔と破岩竜の戦いはここよりが本番。
「君も竜?随分強そうじゃん。折角だから殺り合おうよ。オレについてこれればいいけどねっ!」
「…雷竜を知らないとは。井の中の蛙ですね」
「風、か。火を強めるだけのそよ風が、我が前に立つとはな」
「暴風に吹き消されるだけの小火が、よくも大言を吐いてくれる」
「ディアン。毒耐性の刻印を強化しなよ」
「言われなくてもやってる。とっとと倒して次行くぞ」
「無理だよニンゲン。あんた、ここで死ぬもん」
強大な竜の一角を引き付けている間、内部でもそれぞれの戦いが始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます