side . Dragon 4 『セントラル直上にて』
「ふは」
らしくもない笑い方。思わず、あるいは急に降って湧いた歓喜に引っ張られるように。
焱竜ブレイズノアが大口を開けて無邪気に笑う。
「どうした。何かあったか」
玉座に腰を降ろしたまま、エッツェルは問う。今現在彼の力はほぼ全てが〝成就〟の概念体へと向けられている。玉座の間の中央で意識不明のまま捕らわれたウィッシュ・シューティングスターはその本質を着実に歪められている最中だった。
「いやなに。……ふふ、はっは」
ひとしきり笑ってから、ブレイズノアは顔を上げる。その瞳にはやはり喜々とした色が乗っている。
「懐かしき気配を感じた。あれは『
祖竜にのみ感じ取れる、祖の力。同刻ミナレットスカイにて風刃竜シュライティアが覚醒した瞬間のことである。
「そうなるのなら『
呵々とまた笑い、ブレイズノアは己の骨牙たる大剣の柄を指先で撫ぜる。
この剣が振るわれるその時は近い。
それすなわち、高高度たるこの巨竜の中へと外敵が押し入って来るその時。
「じきに来るぞ。そこな願望機を取り返しにな」
「そうか」
特に興味も無さそうな様子で、エッツェルは横目で〝成就〟の概念体を一瞥する。
「…こちらも、じきだ。来るというならば相応の対処は取らねばなるまい」
そもそもこの暴竜テラストギアラの体内にまで辿り着ければ、の話ではあるが。
竜王エッツェルは自分の足元に意識を向ける。この下、さらに下。真下の地上にはこの世界の人類種がもっとも栄え居場所としているセントラルがある。
これだけの距離があろうが、竜王にとっては自身が持つ破壊の力で一瞬にして粉微塵に吹き飛ばすことは容易だ。それを未だ実行していないのには理由がある。
エッツェルはこの世界を再び竜のものとして再構築する為に、この世界を我が物面としている生命へと絶望を叩きつけるつもりでいる。竜の時代が滅びてから先、世界を掌握し思いのままに私腹を肥やしてきた現行生命体へその負債を支払わせる必要がある。
だがそれを行ってしまえば世界は瞬く間に大恐慌に陥るだろう。いやそれはいい。それこそが竜王の狙いであるのだから。
しかしそれは同時に、無数の負念。『悪意』をも爆増させる結果となる。
そうなればそれを主燃料とする、あの悪食の愚王はどうなるか。
限りなく増え続ける悪意を噛み砕き飲み下し、その果てにはまず間違いなく歴代最高峰の悪竜が誕生することだろう。
竜種としての質は祖に比肩するレベル、エネルギー量だけで見ればその祖ですら凌駕する可能性すら考えられる。何せ世界中から集められた悪竜の原動力だ。それがたった一つの竜に集うのなら、それはもはや竜神と呼んでも差し支えない存在と化す。
無論現竜王たるエッツェルとて神すら殺せる力を保有している。少なくともそう豪語できるだけの存在濃度、強度を誇っている。完全復活した最強の黒竜、〝絶望〟すら取り込み限界というものを突破した埒外。
もし仮に『悪竜神』とでも呼べるモノが発生したとて倒せる。倒せるが。
その時、エッツェルとハイネの他に飛び回る羽蟲がいるのであれば、それは確実に障害となる。
エッツェルは人というものをどこまでも見下しておきながら、その力の一切を侮ってはいなかった。
竜種の時代を正しく取り戻すには正しく順序を経る必要がある。今はまだ、無駄に悪意を散開させることは避けるべきだ。
〝成就〟の変質を終えた次にと考えていたあのホテル。それより前に羽蟲の一団がやって来るのであればむしろ僥倖。
蹴散らし、破壊し、絶望の中でその命を散らすがいい。
「今度はもう少し遊ばせてもらいたいが、どうか」
「好きにせよ。ただし無様は晒すなよ」
ピリピリと張りつめた空気の中、竜王は無表情のままに、ブレイズノアは隠そうともしない歓びに口元を綻ばせたまま佇む。
ーーーーー
大天使ナタニエル討伐。神造巨人崩壊。
これだけの大戦を終えてアクエリアスへと帰還する面々だったが、世界は依然として数々の脅威に揺るがされ続けたまま、既に一時の平穏すらも維持することは叶わない。
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