危機決戦・星を踏み貫く神造巨人 7
最後の二十秒。残る照準ビーコンの片方を担うエヴレナが、竜化した口に咥えていたそれを上空へと投げ捨てる。
もちろん自棄になったわけではない。天使達は既に学習した内容から衛星の一撃を行うにはビーコンの存在が不可欠であることを学んでいた。だからこそ排除すべき要素を追って勢力の数割が空へと昇る。
遥加とマルシャンスの弓撃によってさらに高空へと打ち上げられたビーコンへ殺到する白翼の螺旋。兵軍の一部がこれを狙って戦力を減衰させつつ、最後に残るビーコン―――刻印術を全開で行使するディアンが持つ希望への死守に回る。
身を呈して武器の矛先から庇い、光線を数人がかりの術式で逸らし、勝てないほど疲弊していても手足にしがみついて。泥臭い防戦を繰り広げていくこと十三秒。
このタイミングで一斉に生き残った飛竜達は兵軍の仲間を乗せ、あるいは爪で持ち上げ牙で掬い上げ全速で離脱を開始する。
比較的損傷疲労の軽微な者達が殿を務める中、ディアンだけはまったく巨人の頭部から離れる様子がなかった。
死ぬよ?そう言うカナリアの言葉にも耳を貸さない。
これだけの人間が死ぬ気で、あるいは本当に最期まで命を投げ打って戦ってきたのだ。今更自分だけが引け腰でいられるわけがない。
肩に乗る鳥は人間臭い挙動でやれやれと首を振るう。最悪の場合、その大いなる権能を用いて逃がしてやろうかと慈悲を考えていた時、彼らの背後から現れた影が唐突に襟首を掴む。
天使が最後の抵抗に出たかと身構えるも、すぐに視界に入った姿に動きを止める。ヴァリスの片腕を氷山で封じてから行方知らずだった大魔女カルマータがそこに立っていた。
まだ氷山ごと破砕された肉体の修復が中途半端なのか右半身のシルエットがないカルマータが、ディアンからビーコンをひったくると転移の術式でディアンを包んだ。
抗議の声もままならず、転移で砲撃圏内から排除された仲間の消失を見届けて、カルマータが半分失われたままの肉体に残された最後の魔力を練り上げて迎撃の魔術を組みつつ救世獣を呼び寄せる。考えなしの突撃を繰り返し残り十機にまで減った人型機兵も魔女を囲うように集結した。
これで生きた命は自分のみ。そしてこの身は死にたくとも死ねない躰。
残る数秒の決死行は不死の魔女が請け負った。
ーーーーー
いくら外より強度の低い内部からの破壊とはいえ、一度の衝撃で突破できるものではないことをアルとアプサラスは知っていた。続く連撃を用意していた彼らは、予想に反して初撃であっさり空いた外への大穴に一瞬だけ唖然とする。
だがすぐにそれも判明した。風の吹きこむ外界への孔。その先にいる式神の竜と騎乗する隻腕の退魔師。
外側から気配を察し、ピンポイントで外側から攻撃を合わせて内外からの同時破壊を押し通した。やはり子の懇願を聞かず戦場へ舞い戻った日向日和が無言で手首を返し『早く出ろ』とジェスチャーを送る。
竜化で膨張した体積ごと外への穴を拡張しながらアプサラスがアルを乗せて飛び出す。次いでヴェリテが夕陽と真由美を乗せてその後を追った。竜種の中でも速度に秀でた風と雷の竜がたったの三秒で巨人から充分な距離を取る。
ーーーーー
光が瞬き、宙を覆い、地へと奔る。
三度目になる、墜ちる光の柱。荘厳で美麗な破壊の御柱。触れたものを灰塵に帰す終末兵器。
星を踏み貫く神の巨人は、星を穿つ極光の一射によって今度こそ崩れ落ちる。
遠隔から絶えずモニターを続けていたシャザラックは、更地になったミナレットスカイへと新たな大山を築きながら亡骸を崩壊させていく巨人ヴァリスの完全沈黙を兵軍全体へと伝えた。
けれど決定的な勝利の瞬間を、廃都時空戦役時のように声高に喜ぶ者はいない。それどころか急ぎ慌てる彼らは這う這うの体でどうにか帰還の準備を進めている。
崩れ落ちる巨人の体積は莫大だ。すぐにでもこの場を離脱しなければ巻き添えを食う。それに此度の戦でも大きな被害が出た。一刻も早い治療が望まれる兵士達も少なくはない。
そして何より、日和の片腕を奪った『崩壊』の使い手のこともある。
崩れ落ちる巨人の残骸に呑み込まれ姿は掻き消えてしまったが、あれで仕留められるのであればここまで苦労はしていない。日和の一手によってもうしばらく忘我の最中にあるであろう魔女だが、再覚醒までどれほど掛かるかは不明だ。
勝利こそすれど、この地に留まって余韻に浸れるほどの時が無いのも事実であった。迅速にミナレットスカイを離脱する面々は拠点たる海岸、最早数々の防護によって要塞と化したアクエリアスのホテルへの帰路を急ぐ。
ーーーーー
以下『お知らせ』
神造巨人ヴァリス及び大天使ナタニエルの討伐、ここで終了とさせて頂きます!
それに伴いビト様からお借りしていた『「終演」ラストコール・エンドフェイズ』の使用権を解除したいと思います。現在は妨害されて中途半端な能力解放を行った反動かしばらく意識を明滅させた状態ですが、いつまた動き出してもおかしくないものだという認識でいてくだされば!
あとミナレットスカイ全壊!そこで生活していた動物や種族はアプサラスが避難させていたとはいえ、山岳地帯はほぼ更地(&ヴァリスの残骸で山っぽい何かが積み上がっている地帯)になっていると思います!
このあともう少し話を続けさせてもらうんですけど、『死霊術師トゥルーヤ』もかなりのダメージを負っての決着となりました!一応これからロマンティカの治療でどうにかなるとは考えているのですが、もし今後の展開的に何かあるのでしたら後遺症等の事後の処置については東美桜様にお任せします、ありがとうございました!
『叶遥加』、『大道寺真由美』、『悲哀のマルシャンス』もお返ししますね!ホテルに戻ってひと段落ついたら切り離せるタイミングがあると思いますので、そちらにつきましても時期はビト様のいいようにしていただければ!
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