危機決戦・星を踏み貫く神造巨人 6


 ヴァリス内部に残されていた天使達は淡々と、しかし全力で侵入者を阻む。

 だがそれでもこの猛攻は止められない。両手に剣を握り飛び跳ねながらも敵を斬り捨てていくアル。雷纏う戦槌で薙ぎ払うヴェリテが着実に敵の層を削っていく。

 それに並んで夕陽もいよいよ本格的に参戦する。肩には針を突き刺したまましがみつくロマンティカ。常時回復の鱗粉を流し込み続けている今ならば相当の深手であっても無視して斬り込める。そんな彼らを援護する形で真由美は創造した弓や銃を放っていた。

 誰かひとりでも到達できればそれで終わりだ。四名の誰であっても核を破壊できる程度の威力は叩き出せる。

(捩じ込む…ッ!)

 片手の剣を造り直して槍に変え、一瞬だけ開いた僅かな穴を狙いアルが投擲の構えを取る。

 その腕を、下級天使の数体が押さえ込んだ。

「邪魔だボケ!」

 すぐさまもう片方の剣で斬り払うも、手足を無くし胴体が離れても天使達は機能停止する最期の瞬間までしがみ付いて離れない。そうしている間にも次々と他の下級天使が群がってくる。

 攻撃の意思はなく、ただ取り付くだけ。この行動方針の変化にアルは小さく舌打ちした。

 予想違わず、動きを強引に縛られたアルへ向けて上級天使の光線が指向される。

 天使に個の自我は無い。総体として命令を遂行するものであるが故に同胞を殺すフレンドリーファイアを厭わない。

 身動きの取れなくなった仲間の窮地に駆けつけんとした者達をアルの睨みが止めさせる。今するべきはそんなことではないと瞳で語り、一瞬で己の行動を律した三名が一斉にアルを取り巻く状況を無視して核たる球体へ向かう。

 この身に取り付く下級天使達の躰を盾代わりに使えば一撃は耐えられるだろう。だが上級天使は目視で確認しただけでも三体はこちらへ手をかざしている。その全てを防ぐことは不可能だ。

 せめてロマンティカをこちらに回してもらうべきだったかとも考えたが既に遅い。自身の耐久力しぶとさを信じるより他にない。

 ついに発動可能域まで力を溜め込んだ上級天使がその光を放射せんと手を向けた時、三体の天使は同時に動きを止めた。

「あ…?」

 疑問の声を上げつつも隙を見逃すアルでもなく、ひとまずはと組み付く死にかけの下級天使達をバラバラに斬り裂いて自身の自由を得る。

 その間、アルを狙っていた上級天使は停止したまま内側から肉体を崩壊させて死に絶えた。

「危なかったわね~。だいじょうぶだったかい?」

 そして、崩れゆく天使達のさらに背後からおっとりとした声色でワンピース姿の女性がふわふわと浮いたままアルの安否を確認した。

「…カルマータと一緒に戦ってた竜か。いつの間に入り込んでやがった?」

 正体は守護竜アプサラス。だが彼女の存在はこの瞬間まで誰一人として気付くことはなかった。そも、真っ当なやり方ではこの巨人内部へ到達することは極めて困難だったはずだ。それは上位竜種とて同じこと。

「おばあちゃんは風に溶け込んで動けるからねぇ。こっそり姿を消して正面から入ってみたんだよ。攻撃すると術が解けちゃうからここに来るまでは特に何もしてなかったけどね」

 風竜の性質を利用した大気との同化。大天使ナタニエルへの奇襲もそれで成功していたところから見るに、巨人や天使の感知もそれで潜り抜けてきたのだろう。

 アプサラスは説明する間にもアルと協力して片手間に天使達を殲滅していく。やはりいくら言葉遣いや調子が老婆のようであっても竜種としての力は高い。

「礼を言うのが筋だろうが、それならそれであの核をどうにかしてほしかったがな」

「いんやぁ、こんな年寄りが手柄を横取りするのも意地が悪いと思ってねぇ。それよりもほら」

 周囲の残存天使を屠り、アプサラスは片手を内部の壁面へと向ける。

「核とやらを壊したらすぐに逃げないとお空から攻撃されるんでしょう?なら逃げ道の確保も必要だと思ったんだよ。だから」

 風竜を中心に大気が震える。目には見えないが、確かな力が響き合い共振しているのをアルは感じ取った。これが先程上級天使を破壊した能力らしい。

「力を貸しておくれ、坊や」

「やっぱ竜だなお前も。まともに来た道引き返そうって考えにゃならねェわけか!」

 歯を剥いて笑うアルが残る剣を両手で握り振り被る。


 アプサラスの乱入によって天使達の勢力は一気に削ぎ落とされた。迎撃の手間が減ったことで夕陽と真由美が露払いにのみ専念し、最後の壁を確実に突破できるコースを確保する。

 そこへヴェリテが飛び込んだ。閉じた口からは臨界までチャージしたブレスの雷が漏れ出ている。

 壁を破壊する為の風竜と妖魔の技、限りなく近い距離まで詰めて開かれた雷竜のブレス。

 ほとんど同時に、その衝撃は内外へそれぞれ爆ぜた。


「っ!二十秒後に撃てるかシャザラック!!」

『可能ですが味方の熱源探知に回すリソースを割けません。必ず離脱してください』

 急激に弾幕を停止させ脱力したヴァリスの様子から核の破壊を確信したディアンが命じる。三射目は味方が衛星砲の範囲内にいようが関係なく放たれる。発射直前までビーコンを防衛したままギリギリのタイミングで退かざるを得ない。

 分にも満たない決着の時が近づく。

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